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着物は洗えない―老舗の伝統や常識を覆す 丹後ちりめん4代目が挑んだ“逆転の発想”

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

絹の着物が持つ「手入れ」のハードル

大反響となった「洗える正絹」【写真:矢野写真事務所】
大反響となった「洗える正絹」【写真:矢野写真事務所】

 ここで心折れないのが、4代目。修業時代に生まれたネットワークを生かしながら、作り手が報われる形を作りたいと、新規顧客の開拓に乗り出しました。「父親のお客様とは別に、流通の一部を省略化して全国の小売店さんとおつきあいをしたり、先染めの新しい商品の開発をしたり、自分で新たなお客様を作っていきました」。同時に、「昔は着物って、訪問着だとか喪服だとか、あるいは嫁入り道具に持たせるとか、日常的に着るものではない前提で作られていた。でも今、着物を買っていただくお客様は、日常で着る方が多いんですよ」と、冷静な観察力を生かしながら新たな商品開発にも乗り出しました。

 新たな商品開発に本腰を入れるきっかけとなった出来事があるといいます。ある着物販売イベントでのこと。つきあいで呼ばれたのか、「もう着物はいらんいらん」と商品に目も向けない年配の女性がいたとか。

「修行時代にもそういうお客様にはよくお会いしましたが、いざ自分が作った商品を売りに行った時に『いらんいらん』と言われると、『真剣にものづくりをしているのに、僕はいらんもんを作っとんのか』とショックを受け、腐りかけたほどでした。

 しかし、その後も着物販売イベントに出掛けると、木綿や麻の着物、浴衣などを販売するブースには「すごくたくさん人が来て、洋服を選ぶみたいに自分で好きに体にあてて買っておられるんですよ。それがうらやましくて、うらましくて(笑)」

 麻や木綿は需要があるのに、絹はなぜ少ないのか――。

「これだけ温暖化が進んでいるのだから、着物で汗をかく人も多いはず。でも、絹は丸洗いをしてもドライクリーニングなので、汗はまったく抜けていない。手入れという点でハードルがすごく高いんですね。だったら、水洗いできる絹の着物を作って、少しハードルを下げれば喜んでもらえるんじゃないか、と。僕自身、着物を着る機会が多く、洗いたかったので(笑)」

 そこで開発した「洗える正絹」シリーズが反響を呼び、大きな話題となりました。その後の着物販売イベントでは、ワタマサのブースに長蛇の列ができたほど。「それもうれしかったですが、日本で一番大きな着物イベントで来場された方の着ておられる絹着物を見ると、うちの商品が一番多かったんじゃないかと思います。本当にうれしかったですね」。

 ありそうでなかった「洗える正絹」という発想が、伝統の丹後ちりめんに新風を吹かせました。

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)