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仕事・人生

「母親のいないお子さんにする勇気はありますか」 がん宣告を経験した女性管理職が向き合った、キャリアと職場作り

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

大病を「ギフト」と考える発想の転換

 子宮の摘出手術は、精神的にも大きなダメージでした。そんなとき、笹尾さんが会いに行ったのが「私のメンターのような人」という、出身地・静岡県に住む70代のキャリアウーマンで“憧れの人”でした。

 その女性も、がんを患って2人目を産めなくなった経験があったそうで「彼女から『ほかの人にはなかなかできない、自分の経験のひとつになるんだから! 人生ずっと、水戸黄門の印籠を手に入れたようなものよ』と言われたのが救いになったのです」と、気持ちを整理できたといいます。

 その言葉に励まされ、苦しんだ病気も「ギフト」と考えられるようになったとか。結果として「自分のメンタルが強くなりましたし、人に経験として病気のお話をすることもできるようになりました。変な話ですが、高齢のお客さんとお話が進み『私も大きな病気をしました』と言うと、心の距離が縮んだことも」と、前向きにとらえるようになったそうです。

 大病を経験したことで、何か変化はあったのかと聞くと、「もともとの性格かもしれませんが、“生き急いでいる”とよく言われていました。がんを経験してなおさら『いつかやろう、来年やろう』ではなく、今やろうとなりましたね」と、笑顔で返ってきました。

 そんなパワフルさを保つ秘訣は、やはり家族。残業で遅くなっても、出張先からでも、必ず長男とは1対1で話す時間を作るそうです。「LINEで『行ってらっしゃい』や『ありがとう』というメッセージのやりとりは、もう中学2年生になって嫌がりますけど……。夫にも子どもにも、感謝の気持ちや愛情を伝えることも意識しています」と話すように、コミュニケーションを大事にしていることがわかります。

女性たちの声を拾い上げて行う制度改革

 それは仕事場においても同じです。そのひとつが、今年に入って実行した「女性社員座談会」。女性社員がそれぞれお気に入りのお菓子を持ち寄って、プレゼンテーションしながらシェアして食べるという企画ですが、これはあくまでもアイスブレイク。

「みんなで食べたあと、女性のキャリアのために会社にあったらいい制度は何かとか、女性として働くなかでの日頃の悩みなどを拾い上げて、責任者に共有しています」と話します。

 自らの経験で導き出されたのが「女性のキャリアのためには、働きやすい環境を作らなくてはいけない」という信念です。それは「短時間勤務制度」「週4正社員制度」や「在宅勤務」といった仕組みの導入に、ほかなりません。さまざまな背景を持つ人が働くなか、誰にとっても働きやすい環境を作ることが大切だと考えています。

 いくつもの壁を乗り越え、つらい病気にも打ち勝ってきた笹尾さんは、人事のプロでもあります。キャリアを積んでいきたいと考えている女性には「キャリアの棚卸をしてみるといいですね。自分の“いいところ、褒められたところ”を言語化できると、自信になると思います」とアドバイスしてくれました。

(芳賀 宏)