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「#存命なう」が定期的に話題になる俵万智さん 「サラダ記念日」から38年 SNSやAI時代の私たちに伝えたいこと
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クリエイティブな言葉を紡ぐ人間とAIは決してバッティングしない
――これから世の中はAI時代に突入していきますが、言葉の専門家として、AIの言葉についてはいかがお考えですか?
「AIは、便利なものとして活用するにはいいと思いますが、道具を作った人間が振り回されるのは滑稽なので、人類に役立つ形で活用したいですね。創作という意味で言うと、よく『短歌を作るAIってどうでしょうか?』と聞かれますが、短歌を作る私たちにとって最も大事で楽しいところは、短歌を作る過程です。その部分をAIに任せてしまうのは、おいしいところを食べてもらうみたいなことになってしまい、非常にもったいないと感じます。
そこは人間にしかできないことなので、クリエイティブな言葉を紡ぐこととAIとは、決してバッティングしないと思っています。短歌作りでどの言葉を選ぶかは、唯一の正解を探し出すというものではなく、言葉を探す過程で自分の心と向き合うことなのです」
――最近の言葉の用法で、目に余るものはありますか?
「言葉に関しては、基本的にあまり否定する気はないですね。いろいろ新しいものが出てくるのが当然のことですし、若い人たちが工夫して使っている言葉は、むしろおもしろがって興味を持って観察しています」
著書「生きる言葉」 言葉の洪水の中を生き抜く人々へ

――さて、現在、重版を重ねている「生きる言葉」(新潮新書)はどんな方々に届けたい本でしょうか?
「言葉と無縁に生きている人はいないと思います。今、立ち止まって言葉について考えてみませんかという投げかけの本でもあるので、欲張りですけどすべての人に届けたいです。
現在、言葉の洪水の中で忙しく日々過ごしている方が多いと思いますが、見失わずに自分らしく言葉を使うことが、かつて以上に大事になってきています。また、SNSのように表現できる楽しい場も増えているわけですから、自分らしく活用していきたいですね」
――確かに表現の場は増えました。さらにコミュニケーション力が求められる時代になってきましたが、何かコミュニケーション力を高める方法はありますか?
「人を好きになるっていうのは大事かと思います。コミュニケーションって、人と人の間のことですよね。どんな人にもいいところと悪いところがあるので、できるだけいいところを見つけて好きになることが、その人とコミュニケーションを取る一番手っ取り早い、確実な方法かと思います。嫌なところを攻撃していたら、コミュニケーションは成立しなくなっていきます」
人を好きになることは、円滑なコミュニケーションにとって大切なポイントです。言葉とコミュニケーションについて語る俵さんからは、帯に書かれたコピー「言葉の力は生きる力」というメッセージが具体的に伝わってきました。
(日下 千帆)
日下 千帆(くさか・ちほ)
1968年、東京都生まれ。成蹊大学法学部政治学科を卒業後、テレビ朝日入社。編成局アナウンス部に配属され、報道、情報、スポーツ、バラエティとすべてのジャンルの番組を担当。1997年の退社後は、フリーアナウンサーとして、番組のキャスター、イベント司会、ナレーターのほか、企業研修講師として活躍中。
