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赤ちゃんの10人に1人は体外受精 日本の「生殖補助医療」について専門家に聞く
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教えてくれた人:小松原 千暁

「生殖補助医療」は不妊治療の一環で、卵子を体外に取り出して、体外で精子と受精させる技術の総称です。体外で受精させる技術「assisted reproductive technology」から略して「ART」と呼びます。どのような人が受ける治療なのでしょうか。また、一般不妊治療との違いとは? 不妊症看護認定看護師の小松原千暁さんに伺いました。
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一般不妊治療からのステップアップや、不妊の原因によって選択するケースも
生殖補助医療(以下、ART)は、タイミング法や人工授精法の一般不妊治療で妊娠に至らなかった場合、段階的にステップアップしていくもの。基本的に、治療開始からいきなり受ける治療ではありません。
ただし、不妊の原因の種類によっては、最初からARTを選択して、体外受精を行うこともあります。たとえば、男性の場合は精子が少ない、運動率が悪いなど自然妊娠が難しいと診断された人。女性の場合は両側の卵管が詰まっている、子宮内膜症がある、精子を異物とみなし受精能力を低下させる免疫性不妊症といった、受精障害が疑われる人などです。
2022年、日本でARTによって誕生した赤ちゃんは7万7206人。これは全出生児(77万759人)の約10%にあたり、生まれた赤ちゃんの約10人に1人という割合です。女性の年齢や治療回数に上限がありますが、同年4月からARTも基本治療が保険適用になったこともあり、ARTによって誕生する赤ちゃんの割合が年々高まっています。
一般不妊治療と大きく異なる点は「採卵」
タイミング法や人工授精などの一般不妊治療と大きく異なる点は、卵子を体外に取り出す「採卵」があることです。取り出した卵子と、マスターベーションで採取した精子を体外で受精させて受精卵を培養し、子宮に移植する治療方法です。この場合、卵子を獲得するための採卵が重要になります。
採卵を行うにあたり「調節卵巣刺激方法」が選択されるのが一般的です。排卵誘発剤を用いて卵巣を刺激し、卵胞(卵子が入っている袋)を複数発育させます。
そもそも排卵のメカニズムは、月経3~5日目に脳の下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)が出て、卵胞が育つよう刺激することから始まります。胞状卵胞が少しずつ大きくなり、いくつかある卵胞のうち、1つが大きくなって主席卵胞に成長。主席卵胞以外は閉鎖卵胞になって、卵巣内に吸収されます。
E2(卵胞ホルモン)が分泌され、子宮内膜が厚くなるとLH(黄体形成ホルモン)サージが起こり、最終的に成熟した卵胞の1つから卵子が飛び出します。これが排卵です。その後、黄体ホルモンの分泌が促されます。
調節卵巣刺激方法は、卵胞の発育から排卵までを、薬を用いて調節していきます。排卵誘発剤でFSHを増やし、閉鎖卵胞になるはずの卵胞もすべてが育つように刺激すると同時に、採卵前に排卵しないよう内服薬や点鼻薬、注射薬などを使って排卵を抑えていく方法です。
卵巣の刺激方法は、低刺激から高刺激までさまざまあり、基本的には自己注射を行います。また、薬の副作用やOHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクもあるので、自分に合った方法を医師とよく相談して決めましょう。