仕事・人生
京金網に生きる、ジャマイカ帰りの異色職人─「金網つじ」の“型にはまらない”ものづくり
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“職人”と“職人アーティスト”との違いとは?

「今の伝統工芸は20年前と明らかに形が変わっているし、作る人間の意識も変わっている。多分、20年前のままだったら、今の時代には受け入れられていないと思うんですよ」と辻さん。家業に入った当時、伝統工芸品はより芸術作品に近く、“職人”よりも“職人アーティスト”が多かったといいます。
「“職人”は受けの仕事。使い手の声に応えて、喜んでいただけるものを作るのが僕らの仕事だと思っています。京金網は日常で使う道具で、日常の中に豊かさを求める人たちがお客さん。家ではどのように使われるのか、どのように見えるのか、を考えながら作っています。“職人アーティスト”は『自分はこう思っている』と発信する仕事。道具というより芸術品を作るという方が近いかもしれません。“職人”の我が強くなって『自分が作りたいもの』になると、共通言語が少なくなってお客さんがしんどくなるので、そこは大事なのかなって」
金網つじでは元々、料理や和菓子の店で使う道具を作って問屋に卸していたとか。しかし、2代目は「一生懸命に作ったものを自分の手で直接売りたい」という思いから、「一般の家庭にどんなものがあったら使いやすいんやろ」と考えてパン焼き網やコーヒードリッパーなどを制作。大人気商品となりました。
「仕事だけは嘘をつきたくない」という辻さんは、京金網は京都の地で職人が手作りした工芸品であることに、強いこだわりを見せます。
「高い値段であっても、なんでわざわざお客さんが買ってくれるのか。そこは当たり前にならず、ちゃんとした工芸品としての京金網を届けるのが僕らの責任だなと。それに手仕事のものって修理ができるんですよね。お直しができるのでお客さんと長いつきあいができる。そう考えるとやっぱり嘘はつけないなと。
家業を継いだ時、父が最初に言ったのは『この仕事は難しい』ということ。僕らが作るのは、家の中の道具なんですよね。服やアクセサリーなど外で他人に見せるものではない。家に誰かが来た時に初めて見せる機会が生まれるようなものに、お金をかける人は少ない。だからこそ、そこに京金網で自分らしさや心地よさを感じてくれるお客さんに嘘はつけません」
職人であることに真摯に向き合い続けている辻さんは、伝統工芸の未来をどう考えているのでしょうか。後編では、辻さんが考える伝統工芸が果たす社会での役割などについてお話いただきます。
(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)