仕事・人生
40代で脳梗塞、失語症の後遺症を乗り越えて 戯曲翻訳家が仲間と掴んだ朗読による言葉の再生
公開日: / 更新日:

40代で脳梗塞を発症し、失語症の後遺症に苦しんだ戯曲翻訳家の石原由理さん。言葉で生計を立ててきた石原さんは、突如として絶望の深みに追い込まれました。それでも演劇の世界に戻るという強い願いを胸に、過酷なリハビリを積み重ね、やがて自身のキャリアをいかした朗読による失語症克服の方法を生み出しました。現在は、一般社団法人ことばアートの会代表としても活躍する石原さんのインタビュー後編は、「失語症者のための楽しい朗読教室」の設立、活動への思いについて語っていただきました。
◇ ◇ ◇
絶望の中で思いついた、演劇を取り入れたリハビリ
事故や脳梗塞などの後遺症により、話す・聞く・読む・書くなどの言語機能が低下し、支障をきたす「失語症」。全国に約50万人いると推定されています。「まさか、自分がそんな立場になるとは想像もしていなかった」と振り返る石原さん。
40代で脳梗塞に倒れ、失語症を発症。一命は取りとめたものの、右手と右足に麻痺が残り、言葉も出てこずにつらいリハビリに向き合っていました。「私はもう、戯曲翻訳家としても人間としても終わったのかもしれない」――そんな絶望に襲われていたとき、ふと1つの考えが浮かびました。
「演劇に近い朗読を練習したら、言葉が戻るのではないか?」
自分の得意な「表現」という手法をリハビリに応用してみようと考え、演劇のメソッドを使った失語症のリハビリ法を思いつきました。具体的には、好きなドラマの1場面を選び、その台詞を何度も聴いて書き起こし、そして、登場人物たちになりきって声色を変えながら何度も繰り返し読み、感情を込めて「演じる」のです。録音しては聴き返し、表現を調整する。それを繰り返します。
演じる朗読に感じた確かな手ごたえ
取り組んでいくうちに、自分の言葉の戻りに手ごたえを感じた石原さんは、次第に同じ悩みを持つ人たちに向けて発信していきたい、という希望を抱くようになりました。
それまで石原さんがやってきた訓練は、言語聴覚士のもとで、新聞記事や短い文章を音読することでした。リハビリではあくまでも「音読」で、そこに感情を込めることはなく、ただ文字を口にするだけです。たとえば、絵が描いてあるカードを見て、何の絵かを当てます。帽子の絵が描いてあれば、「帽子」と答えます。人によっては「帽子」がわからないこともあるそうです。
「単語の名前や文法の組み立てといった『正しく話す』ための訓練が重視されますが、『伝える言葉』はそれだけでは足りません。本来のコミュニケーションとは、“伝えたい”という気持ち、“自己表現”、そして“聞き手の存在”がそろってこそ成り立つものです。
ただ音読するよりも、“演じる朗読”は、使っていない脳を刺激し、言葉の回路を再構築する助けになるのではないか、と考えました。それがきっかけとなり、独自のメソッドを開発して、『失語症者のための楽しい朗読教室』を立ち上げたのです」