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海外でも愛される京都の伝統工芸 「パンって網で焼かへんの?」から生まれた超人気商品 「金網つじ」2代目が考える伝統工芸の役割

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

辻さんが考える伝統工芸の役割とは?

定番の茶こし【写真:荒川祐史】
定番の茶こし【写真:荒川祐史】

 時代と密接なつながりを持つ伝統工芸は、地域に根差し、その土地の人々により育まれてきました。辻さんは「だからこそ、伝統工芸が地域で担える役割がある」と言葉を続けます。

「伝統工芸って言葉を換えたら“地場産業”だと思うんですよ。大企業や官公庁などで働く人がいれば、そういう職場にはなじめず、良さを発揮できない人もいる。学校での勉強は苦手だけど、モノを作るのが好きな人がいる。僕自身、会社で働くのは絶対に無理(笑)。でも、今の仕事では評価をしてもらえているわけです。

 だから、学校に行けない子だったり、ハンディキャップのある人だったり、シングルマザーだったり、柔軟性のある就業のカタチが必要な人たちのために、伝統工芸だからこそ雇用を生み出せることもあると思うんです。6年ほど前から障害者施設で、マドラーを作ってもらい、販売しています。もちろん、作業代をお支払いして。この前、そのご家族からお手紙をいただいて『うちの子どもがお金を稼げるとも、世の中の役に立つとも考えたことがなかったのに、こうやって働けていることに感動しています』と言われて、めっちゃうれしかったんですよ。

 うちで働いている人たちもバックグランドはさまざま。よく美大や造形大出身の方から働きたいと言っていただくんですけど、うちでは学歴は一切問いません。人間性であったり、伝統工芸とどう向き合っているかであったり、そういった部分を大事にしたいと考えています。適材適所ではないですが、個性の違う人たちがそれぞれ活躍できる社会であるためにも、伝統工芸の存在する意味があるし、その役割を果たすことが僕の生きがいでもあります」

 最近では、金網つじ「らしさ」をどうやったら表現できるか、考えているという辻さん。その言葉からは2代目の人柄がにじみ出ます。

「『らしさ』ってモノに宿る気配という人もいるし、宿したいという人もいる。確かなのはデザインとかではなく、もっともっと空気的なもの。それって社員さんの働いている時の笑顔だったり、お店に来たときの雰囲気だったり、そこに『らしさ』が出るんじゃないかなって。売れることよりも『らしさ』を考えているから、今、この時代にも選んでいただいているのかもしれません」

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)