Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

話題

「ドイツ出国で止められた」 能楽師が体験した文化の壁 保安検査場で「これはなんだ?」と驚かれたものとは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

「マスク?」「これはなんだ?」と次々に質問される

ドイツの保安検査場で「止められた」原因となった2つの能面【写真提供:山田伊純(@yamadaisumi)さん】
ドイツの保安検査場で「止められた」原因となった2つの能面【写真提供:山田伊純(@yamadaisumi)さん】

 投稿したのは、能楽師 金剛流シテ方として活躍する山田伊純さんです。今回ドイツを訪れたのは、研究目的と、能楽について話をするためでした。

 能楽師にとって、面は単なる道具ではなく、決して欠かせないもの。まさか空港で止められるとは思ってもみませんでした。山田さんによると、出国を止められた理由は、今でもわからないといいます。

「日本出国時やドイツ入国時は問題なかったのですが、なぜかドイツ出国時の保安検査場で止められました。結局、理由はわかりません」

 職員からは、矢継ぎ早に質問が飛んできたといいます。

「『マスク?』『これはなんだ?』『何に使うのか?』と次々に質問され、『I’m Noh performer.(私は能楽師です)』と言っても、そもそも『Noh(能)』が通じず、面袋から能面を取り出され、触って裏表をしっかり調べられました。能面は能楽師にとって大切な相棒なので『ここでサヨナラは嫌だな……』と思いました。そのときの『中将』の面は、これまでで一番苦悩の表情が際立って見えました」

海外で能の魅力を伝える難しさ

海外でのワークショップでも能面は活躍【写真提供:山田伊純(@yamadaisumi)さん】
海外でのワークショップでも能面は活躍【写真提供:山田伊純(@yamadaisumi)さん】

 今回のような体験を通じて、山田さんは、海外で能の魅力を伝える難しさも感じているといいます。とくに課題と考えているのは、能の所作や表現に多く見られる、抽象的な表現についてです。

「能は演者自身の思いが満たされたものが良いとされず、観ている人々が入り込める余地や、想像力をかき立てられるような表現が良いとされています。それは国内外問わず、伝えるのが難しいです」

 それでも、投稿への反響の大きさは、多くの人が日本の伝統文化に興味を持っていることの表れでもあります。山田さんにとって心に残った反応もあったようで、今後もこうした文化交流の機会を大切にしていきたいとのことです。

 なお、山田さんは10月22日(水)に渋谷セルリアンタワー能楽堂で開催される若手能楽師の会「ゆとりのかい」に出演予定。「若者がたくさん集まる街なので、若い人にもぜひ来てほしいです」と、次世代への能楽の継承にも意欲を見せています。

(Hint-Pot編集部)