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仕事・人生

理系院卒→宿の女将→山伏へ 奈良から群馬に移住した女性が貫く「祈りの生き方」

公開日:  /  更新日:

著者:浅倉 彩

吉野山の宿「KAM INN」の女将だった頃の片山文恵さん【写真提供:片山文恵】
吉野山の宿「KAM INN」の女将だった頃の片山文恵さん【写真提供:片山文恵】

 修験道発祥の地・奈良県吉野でゲストハウスの女将をしながら得度し、現在は群馬県妙義山に移って修験道の復活と宿の開業を目指す山伏の女性がいます。法名「惠遍(けいへん)」、本名 片山文恵さんです。片山さんが選んだ「修行を通して誰かの幸せを祈る生き方」とはどんなものなのか。岡山県に生まれ、理系の大学院を卒業し、宿の女将になり、そして今に至るまでにどんな決断があったのか。片山さんにご自身の半生を伺いました。

 ◇ ◇ ◇

山伏にはどうすればなれる?

――片山さんが山伏として帰依する修験道について、簡単に教えてください

 修験道は、日本古来の山岳信仰で、役行者(えんのぎょうじゃ)さんという方が開祖とされています。森羅万象に宿る日本在来の神様に、渡来した仏教の仏様が習合した、神仏習合の祈りの形です。

 山伏は、お山に入って神様仏様と一体になり、人々の幸せを祈る修行を一生続けます。その“生き方”が修験道です。山伏として修行を積めば積むほど、私は山をただの物体のように「山」と呼ぶことができなくなりました。

 山は生きた尊い存在であり、私たちの憧れであり、恋人や敬愛する先生のように大切で、そしてみんなにも大切に思ってほしい、本当に! 心から! 大好きな人! みたいな存在だから「山」と呼ばずに「お山」と呼びます。皆さんも尊敬する大切な人は呼び捨てにできないでしょう?

――山伏にはどうやってなるのですか?

 私は奈良県吉野にある修験道の総本山で得度(仏門に入ること)しました。

「得度」という言葉からして修験道には仏教の要素が色濃く見られますが、その下敷きには自然そのものに手を合わせる自然信仰があります。

 お山は神様だけでも仏様だけでもなく、“神仏”の化身です。お山に入ることはその神仏と一体になること。神仏と一体となって皆の幸せを祈り、その祈りを更に上へ届ける。それが修行です。山伏とは、お山に入りそのように生きている者たちのことを指します。

神社を管理する祖父から教わった“神様の多様性”

――山伏として、神仏の化身であるお山に入って人々の幸せを願う道が、修験道なのですね。もともと、神様や仏様のような目に見えない存在を信じてきたのしょうか?

 岡山県で生まれ育った幼少期に遡ると、祖父が神道の一派である黒住教の神職の免許を持ち、小さな神社を管理していたルーツに辿り着きます。印象に残っているのが、祖父の神様への寄り添い方でした。

 祖父は、「世の中には、目には見えないけどすごくたくさん神様がいて、見守ってくれている」と言っていました。そして、「みんな願い事をしに神社に行くけれど、強い力がある神様ばかりじゃなくて、友達みたいにただいる神様や、弱々しくてこちらが大丈夫? って言ってあげないといけない神様、怖い神様もいる。それに、どんなに強くて偉い神様でも、みんなからお願い事をされたら疲れちゃう。だから、『いつも見てくいてくれてありがとう。頑張ります。見ててね』くらいがちょうどいいんだよ」って。

 今、さまざまなお山に対して、それぞれの人格のようなものを感じているのも、この頃に得た“神様の多様性”への感覚がベースにあるのかもしれません。