仕事・人生
理系院卒→宿の女将→山伏へ 奈良から群馬に移住した女性が貫く「祈りの生き方」
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朝座勤行に熱心に通ううちに山伏として生きる道を意識するように

――山伏になろうと決めた、直接のきっかけはどんなものでしたか?
吉野で得度したというと、山伏になるために吉野に移住したかのようですが、そうではありません。もとは宿をやりたくて、さまざまな巡り合わせで始まりの場所が吉野になったんです。そして女将として勤めることになった「KAM INN」という宿が、修験道の聖地である吉野山であり、この宿の目と鼻の先に修験道の総本山である、私が得度をした金峯山寺があったんです。振り返ればこれが“ご縁”というものなのだなぁと思います
吉野で宿の女将になってから、せっかく近くにあるし、修験道のことも知りたいしと、金峯山寺で毎朝行われている朝座勤行(あさざごんぎょう)に通い始めました。あまりに毎朝行くのでそのうちお坊さんたちと顔見知りになり、あるとき道端で「修行って何ですか? なんでお山なんですか?」って立ち話で聞いてみたんです。
そうしたら、「修行っていうのは自分じゃなくてお人のためにするのであって、自分以外の人の幸せを祈ることが修行なんやで。でな、自分のことを差し置いてお人のことを祈るって聞くと、しんどそうに聞こえるかも知れへんけど、ずっとやってるとな、不思議なことに自分自身も生きやすくなっていくねん」って教えてもらいました。お話しされるその方の清々しい笑顔がとても印象的で、修行するとこうなるのかなとほんのり思ったことを覚えています。
その後も相変わらず朝座勤行に通っていたら、「そんなに熱心にお参りしてくれるなら、寺に入るっていう道もあるよ」と言われるようになりました。それでも「自分以外の誰かのために死ぬまでずっと修行し、祈り続ける人生」を選ぶ勇気は全然なかったです。
そうして1年が経った頃、ある朝「うん、得度だなぁ」って納得しながら起きたんです。寝ぼけていたもので、3秒後くらいに自分でびっくりしました。「ええ! 今すごいことを思いながら起きたぞ」って。驚く気持ちを静めつついつものようにお堂に行ったら、どういうわけか住職さんが「文恵ちゃんもそろそろ、こっちの世界のことけじめつけなあかんな」って言ったんです。
何も伝えていないのに! とまたびっくりしました。その後数日間、自分と向き合いしっかり考えて、腹が決まった朝、朝座勤行にいつもより少し早く行きお堂の中で正座で待って、師匠にするならこの人と思っていた方に「弟子にしてください」と頭を下げました。
