仕事・人生
「絶対にあんなふうにはしたくない」 47歳でパパになった元L⇔R黒沢秀樹さん 父を反面教師に“新しい父親像”を探して
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1990年代、ポップなサウンドが特徴の「KNOCKIN’ ON YOUR DOOR」でミリオンセラーを記録した3人組バンド・L⇔R。ギターを担当していた黒沢秀樹さんが、「父親」というまったく新しい人生の“ドア”を開いたのは、47歳のときでした。今年8月で55歳になり、7歳の男の子を育てながら、心理カウンセラーや、学生が起業した「スターベルズ」という企業の執行役員を務めるなど、充実した日々を送っている黒沢さんに、子どもが生まれた当初の思いや、育児について大切にしていることを伺いました。
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仕事を頑張らなければという思い込みを反省
「正直、結婚なんて全然考えていませんでした」
そう振り返る黒沢さん。結婚や子どもについて真剣に考えるようになったきっかけは2016年、L⇔Rのボーカリストだった兄・健一さんの死でした。
「父が亡くなって、兄が亡くなって……。育ててくれた母親のことを考えると、孫がいないっていうのは申し訳ないなって」
2017年末に結婚し、翌年には待望の第1子が誕生。47歳のときでした。この日の取材場所に、チャイルドシートを乗せた自転車でやってくるほど、子どもとの生活が日常に溶け込んでいる黒沢さんですが、誕生から1年ほどは「多くの父親が陥りがちなパターンにはまっていた」と苦笑します。
「子どもが生まれると、お父さんってもっと一生懸命働かなきゃ、ちゃんと稼がなきゃという感じで、頑張っちゃう。それで、子どもはお母さん任せになるみたいなパターンが多いと思います。僕も同様で、大きなレーベルの契約プロデューサーとして、毎日深夜までスタジオに詰めて、帰ってくるのが午前2時、3時みたいな。そんな生活を1年くらいやっていました」
子どもとの関わり方を見直したきっかけは、発達心理学を学んだことでした。もともと心理学に興味があった黒沢さんは、子どもを授かってから独学するように。そして、調べていくうちに、3歳までに基本的な愛着関係を作ることの大切さがわかったそうです。
「今考えると、すごい反省ですね。本当は、たぶんそれくらいの時期に一番ちゃんと子どもに関わって、子どもとお母さんを支えなきゃいけないのに、そこを全部仕事で、ほとんどプライベートの時間がないみたいにしちゃって」
もちろん、午前中は保育園の送り迎えをしたり、離乳食を作ったりと、育児にも参加していました。しかし、夜遅くまでの仕事が続く生活では、子どもとじっくり向き合う時間が十分に取れていなかったのです。
育児では常に自分を客観視
こうして、子どもが1歳になった頃から、黒沢さんは仕事をセーブし“自主育休期間”を取って、より深く育児に関わるようになりました。
忙しい日々のなかでも心がけていることは「きちんと子どもに反応すること」。どんなときでも、子どもに呼ばれたら返事は欠かさないといいます。この姿勢の背景には、黒沢さん自身の幼少期の体験がありました。
「僕ら世代は、小中学校で体罰を振るわれるのが当たり前。今だったら全部アウトなことがまかり通っていました。生徒指導の先生は竹刀を持って歩いていましたしね(笑)。それでも当時は、親が教師に対して『もっと厳しくしてください』っていうくらい、めちゃくちゃな時代でした」
そうした時代に、教師だった父から厳しくしつけられてきたという黒沢さん。我が子が生まれて、心理学を学ぶうちに「親がいかに、今の時代にはそぐわない不適切な養育をしていたのか」を実感するようになりました。
世代間の負の連鎖を断ち切るのは、容易なことではありません。黒沢さんは、心理学の学習と自身の強い意志によって、新しい父親像を模索し続けているといいます。
「常に怒っているとか、常に命令しているとか……絶対にあんなふうにしたくない。そんな接し方を息子にしたくない。そう思って、常に自分を客観視することを大切にしています」
