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「吐き気を催す」と欧米人に評される、高級食材「マツタケ」 金額に見合った栄養はある? 栄養士に聞いた

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:和漢 歩実

秋の味覚の“王様”マツタケ(写真はイメージ)【写真:PIXTA】
秋の味覚の“王様”マツタケ(写真はイメージ)【写真:PIXTA】

 秋の味覚の“王様”といえばマツタケ。夏の高温の影響もあって、今年も高値のようです。豊かな香りが魅力のマツタケには、どんな栄養があるのでしょうか。めったに食卓に上がらない食材ですが、マツタケの豆知識について栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺いました。

 ◇ ◇ ◇

日本では好まれるのに…印象が分かれるマツタケの香り

 マツタケは、奈良時代の「万葉集」に「秋の香」と詠まれた歌があり、これをマツタケとする説もあるなど、日本では古くから食べられてきたと考えられています。アカマツの根元などに生えますが、ほかのキノコのように人工栽培の方法が確立されていません。アカマツ林の減少などにより、国産マツタケの収穫が減っている状況にあることから、ますます希少価値のあるキノコになっています。

 マツタケの独特な香りは、マツタケオールと桂皮酸メチルによるものです。日本人は大好きな香りですが、実は欧米人にとっては「革靴にこもった臭気」など不快に感じる人も多いようです。欧州の一部に自生するマツタケの学名「Tricholoma nauseosum」は、ラテン語で「吐き気を催させるキシメジ」という意味を持つほどです。

 同じ香りでここまで印象が分かれるのは珍しいですが、日本人にとってマツタケは、まさに「秋の訪れを告げる香り」。炭火焼きや土瓶蒸し、炊き込みごはんなど、さまざまな調理法で香りを楽しみます。

マツタケよりもほかのキノコのほうが栄養メリットが高い?

 香りの印象ばかりが強く、栄養面についてはあまり気にしたことがないかもしれません。マツタケは、ほかのキノコと同じように低カロリーながら、ビタミンDやビタミンB群、カリウム、食物繊維などをバランス良く含んでいます。

 それぞれの働きを説明します。まず、吸収しにくいカルシウムを効率良く摂取できるようサポートするのがビタミンDです。次に、エネルギー代謝の補酵素として、糖質・脂質・たんぱく質からエネルギーを生み出す助けをするビタミンB群の一種ナイアシン。そして、余分な塩分や水分を体外に出して、体内の水分量を保つのに欠かせないカリウムや、便秘の予防や改善が期待できる不溶性の食物繊維も含まれています。

 ただし、ほかのキノコと比べて、特別に豊富な栄養素などありません。たとえば、ビタミンDならマイタケ、カリウムならエリンギ、食物繊維ならばブナシメジのほうが多く含まれています。したがって、ほかのキノコと比べて「金額に見合った」栄養メリットがあるかというと、そうとはいえないでしょう。

 やはり、マツタケといえば、独特の香りが特徴的です。香り成分のマツタケオールや桂皮酸メチルは、食欲を増進したり、消化酵素の分泌を促したりする作用が期待できます。香りで季節を感じながら食感を味わうひと時に、ぜいたくさがあるのかもしれません。

マツタケの選び方や調理の際のポイント

 マツタケは、かさがあまり開いてなく、内側のひだが白くて汚れていないものが良品といわれています。手に入れたら、香りと風味が落ちないうちにすぐ食べましょう。

 調理する際は、包丁で切るのではなく手で縦に割くと香りが立ちます。マツタケは天然物なので、泥やゴミが付着していることが多いです。濡らした布巾やキッチンペーパーで拭き取ってから調理しましょう。

(Hint-Pot編集部)

和漢 歩実(わかん・ゆみ)

栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。
ブログ:和漢歩実のおいしい栄養塾