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仕事・人生

ドラマで憧れた警察官の夢へ 英語は“赤点常連”だった日本人女性がアメリカ留学で得た自信

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

警察官を経て、現在はイングリッシュコンサルタントとして働く隈明日美さん【写真提供:隈明日美】
警察官を経て、現在はイングリッシュコンサルタントとして働く隈明日美さん【写真提供:隈明日美】

 警察官として現場で犯人を追いかけていた生活から一転、ビジネス向けや高難度の英語を習得できるようにサポートするイングリッシュコンサルタントに転身した、異色の経歴を持つ女性がいます。さまざまな分野で活躍する女性たちにスポットを当て、その人生を紐解く連載「私のビハインドストーリー」。今回は、英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」(本社・東京都港区)の隈明日美さんに話を伺いました。前編では、警察の仕事を志したきっかけやアメリカ留学、捜査現場での経験について伺いました。

 ◇ ◇ ◇

きっかけはドラマ プロファイラーに憧れて苦手な英語を克服

 明日美さんが警察の仕事に関心を持ったのは、高校時代。「テレビの2時間サスペンスドラマが好きで、(俳優の)片平なぎささん主演作など、たくさん観ていました。そんななかで『犯罪心理分析官』(プロファイラー)に憧れたんです」と笑います。

 現場の状況をもとに、統計的な経験と犯罪データ、心理学の側面から犯人像を推理し、特定していくプロファイリング。日本では警察庁の科学警察研究所、警視庁の捜査支援室が取り扱いますが、海外の警察ほどは活用されていません。

 高校卒業後の進路を決めるにあたり、プロファイラーになるため、犯罪心理学を本格的に学べる大学に進学したいと考えた明日美さん。「私が目指そうと思った当時、日本には犯罪心理学を専攻できる大学がまだあまりなかったこともあり、進んでいるアメリカへ行こう」と決意しました。

 しかし、高校時代は英語が大の苦手。TOEIC900点を持つ今では想像できませんが、赤点の“常連”だったとか。それでも「やりたいことであれば努力を惜しまない」という明日美さんは、まず東京のインターナショナルカレッジでネイティブの指導を1年間受け、英語を学び直します。

「一番下のクラスからのスタートで、最初は何を言っているのかもわからなかったのですが、講義はもちろんプレゼン、論文などすべて英語。日本の授業とはまったく違って、自分の意見を言わなければいけません。そうしたスタイルをこなすうち、自信もついてきました」

 そして「ここまでやった。どうにかなるだろう!」と渡米。カリフォルニア州のコミュニティカレッジで、一般教養や心理学の初歩、哲学、統計学などを2年間学びました。そして、いよいよ心理学を本格的に学ぶため、ニューヨークの大学に編入します。

 警視庁刑事部に、プロファイリングなどを担当する捜査支援分析センターが立ち上げられたことから、卒業後に帰国して入庁を目指しますが「倍率も高く、とくに女性には難しかった」と壁に当たります。それでも、警察の仕事に就きたい思いから、県警の試験を受けて合格。警察学校を卒業し、所轄署の交番勤務から警察官としての人生が始まりました。

現場で張り込みも 刑事としての6年半

 交番で1年間、さらに留置管理課を経て、念願の刑事課へ。窃盗事件などの捜査に携わり、続いて県警本部所属の機動捜査隊に配属されました。事件が発生すれば、真っ先に現場に駆けつけるのが役目です。約1年半の所属中は「おもしろいという言い方は良くないかもしれませんが、次々と現場に臨場して、ときには犯人を追いかけるなどしていました」と振り返ります。

 万引きや暴行事件など、自らの手で検挙した事例も少なくありません。日本の警察では、明日美さんが学んできたプロファイリングが実務で広く活用されていたわけではありませんでしたが、実際には生かされたことも多かったといいます。

「地理的プロファイリングというのがあるのですが、日本ではそうした言い方をしないだけで、犯行の状況から“次はこっちを狙うのでは”といったやり方で、実際に検挙につながったことはありました」

 事件現場では怖い思いをしそうな気がしますが、「意外に、トラブルに向き合ったほうが冷静になるタイプで、怖いというより『ちゃんと捕まえなきゃ』と思っていました」と言います。「窃盗犯逮捕のための張り込みも、よくしました。次の犯行現場の当たりをつけて田んぼのあぜ道にしゃがみ込んで、蚊と格闘しながら『来るかな? あっ、来た。来た!』なんて感じで捕まえたこともあります」と、ドラマ顔負けの場面もあったようです。