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京都の古美術店店主に聞くお正月の器選び 縁起を重ねた明治伊万里に合う料理とは

公開日:  /  更新日:

著者:豊嶋 操

お祝い事にふさわしい柄の数々

伊万里錦手松竹梅鶴図1【写真提供:観山堂】
伊万里錦手松竹梅鶴図1【写真提供:観山堂】

 縁起の良い食材と同様に、新年の食卓を華やかに演出するのが器の文様です。八木さんは、次の2枚を選びました。

――これはまた華やかな一枚! とても人気がありそうです。

「はい、1枚目は明治時代の伊万里焼で錦手松竹梅鶴図です。主に磁器の彩色技法で、多彩な色使いが魅力の色絵です。大事な一年の始まりなので、これでもかというほど縁起の良い文様が満載の品を選びました。見込み(※)に松竹梅、その周りには鶴の装飾が施されていますが、描きすぎていないというか、白い部分が多いので、そこはかとなく上品さを醸し出していると思います。皿の色彩が華やかなので、海老芋の落ち着いた茶色とちょうど良いバランスかなと思います。海老芋のから揚げを盛りつけるなら、仕上げにユズをかけると、黄色がアクセントになりお皿と合いますね。

※見込み:器の内側部分で作品の重要な見どころ。装飾がされているなど、個性が際立つ部分。

伊万里錦手松竹梅鶴図2【写真提供:観山堂】
伊万里錦手松竹梅鶴図2【写真提供:観山堂】

――たしかに柄が盛りだくさんなので、お料理はシンプルなほうが合いそうです。

「そして、より景気が良くなるように、もう一枚ご紹介しますね。こちらも明治時代の伊万里焼ですが、さらに描き込みが細かく豪華な印象です。松竹梅に鶴はもちろんのこと、七宝も。お皿のフチも、お花のような形でかわいらしい。

 見込みには、不老長寿を表すおめでたい果物の桃をどんと据えています。そして、ちょっと目を凝らしていただくと……小さいタケノコもちょこちょこと描かれているんですよ。成長した竹だけでなく、これから伸びて行こうとするタケノコまでも入っています。さらに、裏にも宝づくし文様が入っています。

 宝づくしというのは、富や繁栄を表す縁起の良い文様が数種描かれているものです。たとえば、富や財宝の象徴である打出の小槌や巾着、銀行のマークにも使われている分銅などですね。おめでたさ重視の方は、こちらが良いかもしれません。今日ご紹介した2つのお皿には、お稲荷さんや鯖寿司など、色数の少ないお料理を盛ると素敵かなと思います」

「一年の計は元旦にあり」と言われるように、何事も最初が肝心。今年も良いスタートを切れるよう、新春の京都で素晴らしい年になることを願って、縁起の良い作品探しから始めてみるのもいいでしょう。

(豊嶋 操)

豊嶋 操(とよしま・みさお)

全国通訳案内士・医療通訳・薬剤師。医療系出版社に勤務後、通訳案内士となる。プライベートツアーや企業視察時のガイドだけでなく、国内外テレビ局の日本紹介番組にて通訳を担当。『ニッポンおみやげ139景(KTC中央出版アノニマ・スタジオ)』を出版後、TBSラジオ出演。現在はガイド・ツアープロデューサーとして活動の傍ら、「美食地理学」の構築にも取り組んでいる。