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加害者19人“全員不起訴”、法の不条理に絶望…スマイリーキクチが問うネット私刑と厳罰化論

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・佐藤 佑輔

いじめ解決の“正攻法”を語ったスマイリーキクチさん【写真:山口比佐夫】
いじめ解決の“正攻法”を語ったスマイリーキクチさん【写真:山口比佐夫】

 年明けから、全国各地で多発するいじめや暴行動画の拡散。SNS上では“正義の制裁”として加害者の実名や顔写真を公開する動きが広がっていますが、冤罪被害者でネット私刑の恐ろしさを知るスマイリーキクチさんは、私刑が横行する昨今の状況に強い危機感と懸念の思いを抱いています。では、実際にいじめや暴行などの被害に遭った際、被害者はどのような手段を取るべきなのでしょうか。年間100校もの学校を訪れ、いじめ問題についての講演会を行うキクチさんに、最も適切な対処法と、加害者が適切に裁かれるべき社会の在り方について聞きました。【全2回の後編】(取材・文=佐藤佑輔)

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デマによる冤罪被害をきっかけに、いじめや人権侵害を減らす取り組みを続ける

 1988年に起こった「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の犯人グループの1人という根拠のないデマにより、約10年にわたり誹謗中傷や殺害予告といったネットリンチにさらされたキクチさん。2008年には悪質な書き込みを繰り返していた19人が一斉摘発されましたが、結果的には19人全員が不起訴処分という不本意な結末を迎えました。キクチさんはその後、各地の学校や講演会で自身の経験を語り、いじめや人権侵害を減らす取り組みを続けています。

 現在、ネット上では少年による暴行動画が相次いで流出。加害者の名前や住所といった個人情報を特定し拡散する動きが広がっています。しかし、キクチさんは「ネットに拡散すると、すでに社会的制裁を受けているからと加害者側に逃げ道を与えてしまう」という可能性や、何よりも被害者への二次加害を招く恐れもあることから、安易なネット私刑には警鐘を鳴らしています。それでは、実際にいじめや暴行の被害に遭った際、被害者はどのような手段を取るべきなのでしょうか。

「暴行なら受けたその場で110番通報するのが一番ですが、それができない場合、まず行うべきなのはいじめや暴行の被害証拠を残すことです。できたら録音や録画をして、病院の診断書、ノートに書いた日記などでも構いません。いつ、どこで、誰に、どんな行為を、なぜ、どのように受けたか。曖昧な部分がないよう、5W1Hで記録しておくことが大切です。学校や警察に相談した日時や内容も残しておくといいです。大事なのは、証拠集めは淡々と相手に悟られないように行うこと。ついつい『警察や弁護士に訴えます』と言って相手をけん制したくなりますが、そうすると加害者側は『暴行ではなくけんか』『金を盗まれたことにしよう』などと口裏を合わせ、証拠隠滅を図る可能性が高い。あくまでも水面下で進めることが肝心です」

 ネット上では、学校や警察が取りあってくれない、いじめや暴行の事実が隠蔽(いんぺい)されてしまうといった懸念の声も根強いですが、動画のような決定的な証拠があれば学校も警察も黙っているわけにはいきません。

 また、学校側の対策としては、いじめやトラブルといった曖昧な表現をせず、暴行罪、恐喝罪、児童買春・児童ポルノ禁止法違反など、明確な犯罪行為として伝え教育していくことが、生徒に当事者意識を持たせることにつながるそう。

「講演会でそのような言葉を使い、事件化した後の送致の話や、実際の捜索差し押さえ許可状を見せると、途端に青ざめる子もいます。何となく悪いことをしているという意識はあっても、それが具体的にどういう犯罪行為にあたるのか分かっていない子も多い。逆に、れっきとした犯罪なんだと知れば、被害を受けている側も対処法が分かる。いじめを受けていた生徒さんからは『講演を聞いて私の人生は大逆転です。キクチさんのおかげです』という感謝の手紙をもらうこともあります」