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加害者19人“全員不起訴”、法の不条理に絶望…スマイリーキクチが問うネット私刑と厳罰化論

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・佐藤 佑輔

「法律が被害者感情に寄り添っていると言い難いのは事実」

被害者感情に寄り添っているとは言い難い法の現状に複雑な思いも【写真:山口比佐夫】
被害者感情に寄り添っているとは言い難い法の現状に複雑な思いも【写真:山口比佐夫】

 解決に向けた正規の手続きがある一方で、現状はネット拡散が「いじめ解決の唯一の手段」ともてはやされ、支持を集めています。キクチさんはネット私刑に肯定的な論調について、「あれは正義ではなく制裁」と強い嫌悪感を示します。

「学校や警察が動いてくれないときの最後の手段として、被害者本人による投稿であればまだ理解もできます。しかし、現状はアテンションエコノミー(情報化社会において、「人の関心・注目」が経済的価値を持つこと)により、加害者側から流出した暴行動画がインプレッションを稼ぐドル箱コンテンツになっていて、そこでみんながお金儲けをしている。暴行動画で稼いでいるインフルエンサーは、たとえ被害者が消してくださいと声を上げてもそれを聞き入れることはありません。私刑こそ正義という声が支持を集め、やめた方がいいと言う人はたたかれる。ただのストレス発散を目的とした支配欲でしかありません。刺激的なコンテンツにお金が入るという、プラットフォーム側のシステム自体に規制をかけていく必要があると感じます」

 ただ、一方で加害者が少年である以上、卑劣な犯罪行為があったとしても少年法により成人事件とは扱いが異なるという現実も。キクチさんが冤罪(えんざい)被害に遭う発端となった「女子高生コンクリート詰め殺人事件」においても、当時犯人グループの大半が少年だったため氏名等が公表されず、現在は出所して日常生活を送ったり、中には再犯に手を染めているという実情があります。少年事件(未成年の事案等)には加害者更生の観点がなくてはならない一方、少年法の存在が処罰感情の暴走を招いている側面があることについては、キクチさん自身も複雑な思いを口にします。

「少年犯罪に限らず、さまざまな犯罪被害者の方と交流がありますが、法律が被害者感情に寄り添っていると言い難いのは事実です。法と世間一般の常識が乖離(かいり)しているのは、自分も冤罪被害を経験して強く感じているところ。それでも、犯罪者へのリンチがOKならそれは原始時代と変わらない。ネット私刑を続けていても、それはさらに被害者を苦しめるだけ、負のスパイラルが永遠に続くだけです。厳罰化を求めるなら、まずは法律を変えていかないと。立法府である国、政治の責任も大きいと感じます」

 奇しくも27日には衆院選が公示されましたが、選挙を除いて、市民が政治に関われる機会は多くありません。一個人として、いじめ問題を減らすために私たちには何ができるのでしょうか。

「ネットの情報だけじゃなく、シンポジウムとか、講演会とか、もっとそういう場所に足を運んで現場の生の声を聞いてほしいなと思います。少しずつですが、学校現場の中でもカメラを設置したり、心理カウンセラーを置いたり、私立では弁護士がいるというところも増えている。学校は隠蔽ばかりで何もしてくれないということはありません。いじめが完全になくなることはないので、学校、警察、弁護士、地域住民と、皆が協力して解決にあたっていかないといけない。問題を起こす子どもの家庭環境こそ最も踏み込めないところですが、子どもは親や周りの大人の背中を見て育つ部分もある。手本となるべき大人がネットリンチで金儲けをしているような世の中では、いじめや少年犯罪がなくなるはずがありません」

 卑劣な暴行動画を目にして、「許せない」「何とかしたい」と感情が動かされること自体は悪いことではありません。世の中をよりよくしていくためには何をすればいいのか、私たち一人ひとりの行動と責任が問われているのかもしれません。

(Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・佐藤 佑輔)