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いじめ拡散は「二次加害」 スマイリーキクチが「きれいごと」批判に猛反論、私刑が被害者を追い詰めるワケ

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム・佐藤 佑輔

ネット上のデマより、壮絶なネットリンチにさらされたスマイリーキクチさん【写真:山口比佐夫】
ネット上のデマより、壮絶なネットリンチにさらされたスマイリーキクチさん【写真:山口比佐夫】

 年明けから、全国各地でいじめや暴行動画の拡散が多発しています。SNS上では“正義の制裁”として加害者の実名や顔写真を公開する動きも広がっていますが、このようなネット私刑は加害者や被害者の人生にどのような影響を及ぼすのでしょうか。かつて「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の犯人という何の根拠もないデマで、10年以上も壮絶なネットリンチにさらされた経験を持つ冤罪(えんざい)被害者のスマイリーキクチさんは「被害者のためにこそネット拡散はやめるべき」と私刑が横行する現状に警鐘を鳴らしています。【全2回の前編】(取材・文=佐藤佑輔)

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「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の犯人グループの1人という根拠のないデマが拡散

 1972年生まれで、21歳のときにお笑い芸人の道へ進んだキクチさん。デビュー6年後の99年頃から、日本犯罪史上でも類を見ない凶悪犯罪「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の犯人グループの1人という根拠のないデマがネット上の掲示板で拡散、以降10年にわたり、数千件にも及ぶ誹謗(ひぼう)中傷や殺害予告にさらされました。ネットに疎かったキクチさんは、当時マネジャーから「こんな情報が掲示板に書き込まれている」と知らされたことで、デマの存在を認識したと振り返ります。

「正直なところ、最初はたかがネットの書き込みと侮っていました。大手掲示板に、女子高生コンクリート詰め殺人事件の犯人一覧というものがあって、そこに誰かがいたずらで僕の本名の『菊池聡』という名前を書き込んだんです。僕がお笑い番組で事件を茶化したネタをやっていたというデタラメな書き込みもあり、次第にそれを信じ込んだ人が事務所や仕事先にクレームを入れるようになっていった。ネット上では僕の潔白を主張してくれる人もいましたが、その人たちにまで『犯罪者を擁護するのか』と罵詈雑言(ばりぞうごん)が起こるようになり、そのうち『ライブ会場にガソリンを撒いて火をつける』といった殺害予告にまでエスカレートしてきました」

 事務所やライブを通じ、事件とは無関係であることを何度説明しても、デマが収束することはありませんでした。嫌がらせ行為で仕事にも影響を及ぼし、事態の深刻さを感じたキクチさんは、最初の書き込みから約1年後の2000年、初めて警察に相談。しかし、当時はネットの中傷や犯罪予告に対する認識の甘さから、捜査に進展することはなかったといいます。

「発信元から書き込みをした5人は特定できたんですが、本当にその人がそのパソコンから発信したのかまでは分からない。警察からは、『確証がない以上事件化はできない』と言われました。何十回警察に行っても『みんな遊びでやっているだけ』『実際に殺されたら捜査する』と、本当にそんなことを何度も言われた。プリントアウトした殺害予告の資料を大量に持参しても、『あなたはノイローゼになってるんですよ』と取り合ってもらえなかったんです」

 2001年、プロバイダ責任制限法が制定。冤罪被害の発端となった掲示板の管理人にも情報開示請求を行ったものの、「投稿がデマだという証拠がなければ対応できない」と“悪魔の証明”を求められたそう。

「司法が機能していない。法や警察を動かすのが、これほどまでに大変なのかと絶望しました」

 その後、元警視庁刑事と名乗る人物がデマを真に受け「犯人はお笑い芸人になった」と書籍に記載したことで、中傷はさらに激化。何年もの間、殺害予告に怯え、人目を避けるように生活していたといいます。