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「学校も警察も動いてくれない」いじめの放置はなぜ起こる? 元教員が指摘する“悪しき慣例”
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年明けから、全国各地でいじめや暴行動画の拡散が多発しています。神奈川県警では今月4日、動画の投稿・拡散についてSNS上で注意喚起を行いましたが、暴行行為そのものをとがめる記載はなく、炎上。県警は「配慮に欠ける表現がありました」として投稿を削除しました。元公立中学校教師で、『学校というブラック企業 元公立中学教師の本音』(創元社刊)などの著書があるインフルエンサーののぶ(@talk_Nobu)さんは、動画拡散の背景には、長年本腰を入れた対応を怠ってきた学校や警察側の責任もあると指摘します。拡散の連鎖を止めるため、そしていじめを解決に導くためには何が必要なのでしょうか。学校や警察に求められる改革の必要性を聞きました。(取材・文=佐藤佑輔)
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動画の拡散について注意喚起した神奈川県警の対応が「加害者擁護では」と炎上
相次ぐ暴行動画の拡散を受け、神奈川県警少年育成課は4日、「その投稿アウトです!」「SNS上の悪質な書き込みは犯罪になる可能性があります」としてSNS上で注意喚起。県内の学校にも同様のチラシを配布しましたが、暴行行為そのものをとがめる記載はなく、暴行の加害者を“かわいそうな被害者”のように描写したイラストなどから、「加害者擁護」「被害者感情をないがしろにしている」と批判が殺到、炎上状態となりました。同課は10日、「注意喚起の内容について、配慮に欠ける表現がありました」として投稿を削除しています。
公立中学校に10年間勤務したのち教育関係の民間企業に転職、主に教育委員会を相手に学校現場をより良くするための活動や、オンラインでのいじめ相談室の運営なども行っているのぶさんは、痛ましい暴行動画が相次いで出回っている現在の状況について、「起こるべくして起こった、というのが正直なところ。私自身、これまで多くのいじめ相談を受けてきましたが、被害者が口をそろえて言うのは『どこに訴えても動いてくれない』『どうしたらいいかわからない』という残酷な現実です。実際に、フォロワーの多い私に『拡散してくれませんか』という依頼が来たこともありました」と打ち明けます。
文部科学省が定める、第三者委員会を設置して調査すべき「いじめ重大事態」の認定基準は、被害者の「生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」、または不登校の定義にもあたる「年間30日の欠席」が目安とされています。同省の調査によると、2024年度の全国の小中学校の不登校児童生徒数は35万人以上。一方、いじめ重大事態に認定された事案は全国でわずか1404件に留まっています。不登校の原因はいじめに限ったものではありませんが、両者の認知件数にはあまりにも大きな隔たりがあることがうかがえます。
「今の時代、基本的には学校側もいじめ対応について真摯(しんし)に取り組んでいるところがほとんどです。ただ、全国には約3万校の小中学校があり、仮に問題のある学校が1%でも、件数としてはかなりの数となってくる。中学校では20人に1人が不登校といわれる時代。不登校といじめ重大事態の認知件数を比較すると、いじめ重大事態にあたる事案が適切に認定されていないケースも相当数あるのではと考えられます」
ネット上では「学校や警察は取り合ってくれない」「いじめの実態が隠蔽(いんぺい)されている」といった見方も強く、動画の拡散を「被害者に残された最後の手段」として支持する声が多く上がっています。なぜ、いじめは見過ごされてしまうのでしょうか。のぶさんは「教員個人の指導力の差も大きい」と教育現場の実態を説明します。
「教員単位で見ると、加害者にしっかり指導できる先生というのは、全体の半分もいないのではないでしょうか。いじめ指導では、加害者に毅然とした態度で向き合える指導力が必要で、キャリアや忙しさによってそれが難しい先生もいる。もちろん、加害者指導ができなくても被害者に寄り添える先生はたくさんいますが、中には生徒指導も子どもとのコミュニケーションも取れない先生もいます。だからこそ、学校は組織で対応しますが、担任から管理職に情報が上がってこない、管理職が学校外部との連携に積極的でないといった場合には、いじめが見逃されてしまうということが起こります。
被害者と学校の捉え方が食い違うことも多々ある。現場の肌感覚として、いじめ自体はそれこそ日常茶飯事で起こります。見慣れた先生からすると、中には『それくらい普通のこと』『被害者が騒ぎすぎだ』というケースもあるでしょう。管理職がよくある子ども同士のトラブルと報告すると、教育委員会もその報告をうのみにする。意図的なもみ消しというより、両者の認識のズレによって、被害者側からすれば『もみ消された』と感じてしまうこともあると思います」
些細(ささい)な人間関係のトラブルか、看過できないいじめかという判断は、教員や学校によっても対応が分かれるところ。学校側が取り合ってくれない場合、被害者が取るべきアクションとして、のぶさんは「証拠集め」の重要性を上げます。
「動画や音声が取れるなら録画・録音する、嫌がらせのメッセージはスクリーンショットを撮る、けがをしたら病院に行って診断書をもらう、患部の写真を撮っておく。それらの客観的な証拠を持って、学校や教育委員会、警察に訴えに行くしかない。被害者にここまで求めるのも酷な話ですが、学校側が法律を知らないケースも多いので、いじめ防止対策推進法の内容、いじめ重大事態の認定基準や調査義務、出席停止についての資料を持参し、粘り強く交渉していくことが大切です」