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印刷会社で右手首切断、3分の1以上の血液を失いながらも意識失わず 片腕の剣士が秘めた壮絶な過去
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中段に構えた竹刀、面の隙間からまっすぐに相手を見据える視線。しかし、右腕に装着した“こて”の中身は義手で、手首から先がありません。岡山県在住の難波弘憲さんは、30歳の時、職場での事故で利き手である右手首から先を喪失。一時は「死のうと思った」というほどの絶望の淵からはい上がり、全国的にも極めて珍しい“隻腕の中段剣士”として剣の道を続けています。なぜ、片手となってまで剣道を続けるのでしょうか、そして、オーダーメイドの義手を作ってまで「中段の構え」にこだわる理由とは。面の下に隠された素顔に迫りました。
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大量の血が吹き出し「ホラー映画のような光景」 不慮の事故で右手首から先を喪失
難波さんが剣道を始めたのは小学2年生のとき。きっかけは近所に住む4年上の先輩で、文武両道を貫く姿に憧れ、自らも竹刀を握るようになりました。
高校卒業後は剣道の名門・鹿屋体育大学に進学。地元・岡山で就職後の社会人1年目にはアキレス腱切断の大けがを負い、一時は剣道から離れましたが、その後復帰を果たし、後進の指導にあたってきました。30歳のとき「何か新しいことを始めてみたい」と印刷会社に転職。しかし、入社からわずか4か月後、悪夢のような出来事が降りかかります。
「印刷機のローラーを掃除していた際、手が滑ってローラーに巻き込まれ、右手首から先を切断してしまったんです。手首が落ちて、大量の血が吹き出して、骨や腱が全部むき出しになっているような状態。まるでホラー映画のような光景でした。たまたま近くにいた人が止血して、救急車を呼んでくれたんですが、病院で麻酔をかけられるまで、ずっと意識ははっきりしていました」
通常、手首を切断するほどの大けがを負うと、ショックや失血、激痛により、ほとんどの人は意識を保つことができずに失神してしまうそう。しかし、難波さんは体内の3分の1以上の血液が失われていたにもかかわらず、搬送先の病院まで痛みに耐えていたといいます。医師からは「意識があってよかった。失神したら、そのまま失血死していたかもしれない。それにしても、あれで意識を保っていられるなんて信じられない」という言葉を掛けられたとか。
「なぜ耐えられたのかは自分でもよく分かりません。もちろん痛みはひどかったですが、それよりも、やってしまった、会社に迷惑をかけてしまうという思いの方が先に立っていたような気がします」
夕方の退勤前に起こった事故。緊急手術が終わり、麻酔から目が覚めたのは深夜でした。手術では切断した手首を接合することに成功。ホッとしたのもつかの間、1週間後には傷口から侵入した細菌が壊死を引き起こします。臓器への副作用の影響から抗生物質の投与も困難となり、どんどん腐ってミイラ化していく右手。医師からは驚きの処置を提案されました。
「血流をよくするため、腹部を切開して、そこに手を突っ込むというんです。3週間ほどその状態で過ごしましたが、結局血流は戻らず、先生からは『もう他に手立てがないから切断した方がいい』と」
