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電車事故で手足3本を失っても「左腕がある」 壁を乗り越えてきた前向き思考はどこから?
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対談シリーズ第6回 事故で手足3本を失った山田千紘さんに聞く
女優・タレントの美馬アンナさんと、プロ野球の千葉ロッテマリーンズで活躍する美馬学投手のご夫婦には、1歳10か月になる愛息「ミニっち」がいます。先天性上肢形成不全のため右手首から先がないものの、元気いっぱい成長する我が子にたっぷりの愛情を注ぐ毎日です。
出産後は絶望と葛藤に苛まれたアンナさんでしたが、泣いていては何も始まらないと一念発起。我が子との出会いをきっかけに、障害について学びを深めることにしました。障害の有無にかかわらず誰もが生きやすい環境作り、自分と同じ境遇にあるご家族が想いや情報を共有できる場作りのヒントを得るため、さまざまなジャンルの方と対談しています。
今回の対談相手は、20歳の時に遭った電車事故で利き手と両脚を失った山田千紘さん。自身の日常生活をSNSで発信していた山田さんは、昨年7月24日にYouTubeチャンネル「山田千紘 ちーチャンネル」を開設しました。日常生活を動画で公開するこのチャンネルは、現在の登録者数が10万人を突破。中編ではマイナスの中にプラスを見る思考や日本社会で感じる“区別”などについて話していただきました。
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自分が「悲劇のヒロインになっている」と気付いた瞬間
司会:山田さんは事故直後に“明日の自分”が見えず「絶望した」とおっしゃっていましたが、そのどん底から一歩踏み出すまでにどのような心境の変化があったのですか。
山田千紘さん(以下山田):実は「自分が悲劇のヒロインになっている」と感じたことがあったんです。
美馬アンナさん(以下アンナ):えぇー。悲劇のヒロインですか?
山田:はい。僕は事故後、「手足がなくなった自分は今までの自分ではなくなった」と思いました。死んでしまいたい。いなくなってしまいたい。消えてしまいたい。そう思っていましたが、自分が想像したほど周りの目は変わっていなかったんです。
家族、友達、病院の看護師やスタッフの皆さん。そういった周りの人々の目は、今までと変わらずに僕をちゃんと見てくれている。そこに気付いた時、自分が悲劇のヒロインになっていたことにも気付きました。自分から目をそらさずに向き合わなければならない。そう思った時、自分の怪我や体とも向き合うことができました。
アンナ:自分から周囲をブロックしている感じだったんですね。
山田:そうですね。怪我をした後は携帯電話も見ずに、すべてをシャットアウトしていました。会社の先輩や上司が病院に来てくれても、外面がいいのでそれなりの対応はしていたと思いますが、心のどこかに「見るなよ」という気持ちがあった。友達には誰一人連絡しなかったんですけど、異変に気付いた仲間が僕の家族と連絡を取って状況を知り、見舞いに来るようになったんです。この時も「勝手に来るなよ」と毒づいてみたり(笑)。
でも、最初に友達が見舞いに来てくれた時、いつもとまったく変わりなかったんです。失恋したとか学校や職場の愚痴とかいつもと同じ会話で、気付いたら3時間。最初は布団で体を隠していたんですけど、途中で見せても「あ、知ってるよ」くらいの反応で変わらない。本当は驚いていたと思うんですけど、その場の空気を壊さないようにしてくれたんですね。
結局、事故や怪我のことを何も聞かれないまま3時間が経って、「そろそろ帰るわ」と。車いすに乗せてもらってエレベーターホールまで見送りに出て、「バイバイ」ってドアが閉まった瞬間に我慢していた涙が出ちゃって。「そういえば何も聞かれなかったな」と思った時にハッとしました。自分が間違った方向に、何も得ない方向に進んでいたなって。