仕事・人生
「親と金はいつまでもあると思うなよ」 元警察官の社長が手渡す“1万円”の真意 父との別れ、年商20億円までの軌跡に隠された後悔と誓い
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無法地帯からの脱却 感謝を“仕組み”で定着させる

警察官を辞め、自身の会社を創業後、稲場さんは「頑張った分だけ稼げる」制度を導入します。しかし、その仕組みは思わぬ方向へと転がりました。「稼げればいい」という風潮が蔓延し、社内は「無法地帯」と呼べる状態だったといいます。
「ルールがなくて、勤務中に遊びに行ったり酒を飲んだり。本当にダメな会社を作ってしまったという後悔がありました。これあかんわと思って理念を作り、教育を徹底することにしたんです」
痛みを伴う改革のなかで導入されたのが、感謝を形にする「ありがとうカード」です。週に一度、部署を越えて感謝を伝え合うこの習慣は、当初は照れもあったものの、今では握手やハグを交わして互いを称え合うトラーチ独自の文化として根付いています。
また、新入社員には先輩がマンツーマンでつく「ブラザー制度」を導入しました。
「本来、営業の仕事って人に教えるメリットがないんですよ。自分の数字を追う方が大事やし、教えた相手がライバルになるかもしれない。でも、それでは新人が孤独になってしまう」
この問題を解決するため、新人が契約を取れば教育担当のブラザーにもインセンティブが入る仕組みを構築しました。「教えることが自分の得にもなる」という合理的な仕組みにすることで、3か月間、実務から私生活の悩みまで全力でサポートする文化が生まれたのです。
1万円に込めた「親孝行」の願いと、家族への想い

さらに、トラーチには、社員の誕生日に会社から1万円を渡す「親孝行手当」というユニークな制度もあります。
「親と金はいつまでもあると思うなよ、と伝えて渡すんです。僕自身が父を亡くして後悔したからこそ、社員には同じ思いをしてほしくない。親はいつまでも健康とは限らないんです」
渡した1万円の使い道を細かく管理はしませんが、親と食事に行ったなど、報告とともに感謝を伝えてくる社員もたくさんいるそうです。
「トラーチと関わった人がみんなハッピーになれる、そんな場所を作りたい。誠実な会社が勝つことを、僕らが太陽光業界のトップに立って証明したいんです」
警察時代の悔しさから生まれた評価制度、創業時の失敗から学んだ感謝を伝える大切さ、そして父への思いから始まった親孝行の推進。これら人生の痛みから生まれた「人を大切にする」という一貫した誓いは、確かな実績となって結実しています。
2025年には、日本代表として中国でのグローバルサミットに登壇。世界のインフラ課題解決へ向けて舵を切りました。そして2026年1月には、地域貢献や若手育成が評価され「奈良を代表する企業100選」に選出。その誠実な姿勢は国内に留まらず、西アフリカ・マリ共和国の電力危機を救うための「太陽光パネル・蓄電池提供プロジェクト」という国際支援にもつながっています。
かつて父に誓った「成功」は、今や「世界のインフラ課題を日本の技術で解決する」という壮大な使命へと姿を変えています。奈良から全国へ、そして世界へ。稲場さんは、これからも多くの人の住まいと家計、そして未来を照らし続けていきます。
(Hint-Pot編集部)