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「自分たちの価値を低く見積もり、自分で自分の首を絞めている」 世界遺産を擁する観光地 疲弊しない未来を作る挑戦とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

「点」から「面」へ 他市町村を巻き込んで観光コンテンツを充実

一般社団法人那智勝浦観光機構の理事長を務める松下哲也さん【写真:Hint-Pot編集部】
一般社団法人那智勝浦観光機構の理事長を務める松下哲也さん【写真:Hint-Pot編集部】

 この地の価値を見直すことと並行して、松下さんがもうひとつ力を入れているのが、観光の「面」での売り方です。きっかけは、旅行会社との商談会でした。

「那智勝浦に行ったあと、どこに行けばいいですか」

 その問いに、那智勝浦を「点」で売ろうとしていた自分に気づいたといいます。

 しかし考えてみれば、熊野古道はそもそも広大なエリアにまたがる道です。同じ和歌山県の田辺市から那智勝浦町まで歩けば5日以上かかるとされています。さらに三重方面まで少し足を伸ばせば伊勢神宮もあります。

 インバウンドの旅行者は、ひとつの場所を訪れるのではなく、複数の地域をめぐりながら日本を楽しむ傾向があります。そのため、那智勝浦だけを売り込むより、エリア丸ごと提案するほうが旅行者も旅のイメージがしやすいのです。

「関西国際空港からぐるっと紀伊半島を一周まわって、お伊勢さんも通って、京都、大阪を回ったらちょうど5日間。東南アジアからのツアーって、実は5日間が主流なんです」

 この発想から、松下さんは隣接するクジラで有名な太地町との観光連携協定を締結。さらに、熊野三山の一社・熊野速玉大社を擁する新宮市、また「筏(いかだ)下り」が有名な北山村との4市町村による連携協定を5月下旬に締結し、「面」の観光圏づくりを着実に進めています。

「観光コンテンツが増えて、ボリュームのある観光ルート、つまり『面』が作れるわけです。これを修学旅行の誘致などにも活かしていきたい。観光に行政区域はありませんから」

観光を「育てる」 那智勝浦が示す地方観光の未来

 この地の価値を見直すこと、そして那智勝浦単体ではなくエリアで売ること。この2つの取り組みを通して、松下さんには描く未来があるといいます。

「観光地がボランティア化して疲弊するのではなく、きちんと価値を価格に反映させて、その財源を地域に還元し、観光を『育てる』という意識にシフトしていかなければいけません」

 実際、ホテル浦島では宿泊料金をかつての1.5倍ほどに引き上げました。それでも、価値がしっかり伝われば、お客様は足を運ぶと松下さんは考えています。

「観光でしっかり財源を確保して、それを街や働く人たち、そして若者の育成へ還元していく。この『トリプルウィン』の好循環を作ることこそが、僕が理事長として、そしてホテルの経営者として見据えている那智勝浦の未来です」

 地域の資源を守り、次の世代へ引き継いでいくためにも、持続可能な観光の形が求められています。松下さんの挑戦の先に、那智勝浦が日本の地方観光のひとつのモデルとなる日が来るかもしれません。

(Hint-Pot編集部)