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コロナ禍でスーパーマーケットの従業員が人気職となったフィンランド 人手不足の日本との違いとは

公開日:  /  更新日:

著者:吉田 実

フィンランドでは人気職のスーパー店員 クレーム対応も苦ではない

 では、非常事態宣言が出てから1か月以上が経つフィンランドのスーパーマーケットはどのような状況になっているのでしょうか。「Kマーケット」という国内シェア2番目のスーパーマーケットで働く、Nさん(30代男性)にインタビューを申し入れたところ、快諾してくれました。実際に現場で働くNさんから見た、フィンランドのスーパーマーケット事情とは一体どのようものでしょうか。

14時頃のヘルシンキのスーパーマーケット内。人はまばらだが商品棚は充足している【写真:吉田実】
14時頃のヘルシンキのスーパーマーケット内。人はまばらだが商品棚は充足している【写真:吉田実】

――スーパーマーケットで働き始めた時期と業務内容を教えてください。また、職場や業務内容は好きですか?

Nさん:Kesko(フィンランドで2番目に大きなスーパーマーケットチェーン)で働き始めてから10年になります。ヘルシンキの中心地から1.5キロほど離れた住宅地にある、今の職場で働き始めたのは4年前です。10年のキャリアがあるので業務内容は多岐にわたりますが、現在は精肉コーナーを担当しています。レジの担当になりこともあります。仕事はとても好きですよ。

――新型コロナウイルス感染症がフィンランドで拡大し始めてから、職場や利用客の行動などに変化はありますか?

Nさん:もちろん変化はありましたよ。特に最初の方は劇的な変化がありましたが、現在はみんな、この状況に慣れてきたような気がします。コロナ禍以前は1日に約1~5通のEメールが利用客から届きましたが、パンデミック後は1日15~25通に増えました。利用客の中には今までと特に変わることなく当店を利用する人と、極度に注意深くなった人がいますが、Eメールはすべて注意深くなった人たちからですね。Eメールの内容は概ね、利用客の安全を守るために取ってほしい対策などについてです。

――節度のないクレーマーやモンスタークレーマーに悩まされることはありますか? 他の従業員も含めて、どのくらいの頻度でそういった状況に遭遇しますか?

Nさん:多くのスーパーマーケットの現場で働いてきましたが、現在の職場(ヘルシンキの高級住宅地)の利用客が一番要求の高い層だと思います。つまり、クレームを訴える利用客は毎日訪れます。しかし私たちのほとんどは、それが日常の仕事の一部なので慣れています。また、クレームを入れる人は多くの場合、コロナ禍の不安な状況に苛立っていたり、フラストレーションを感じていたりする人たちですので、こちらとしてもある程度の理解はできます。節度がなかったり、マナーを守らなかったり、怒鳴ったりするほどではないので、クレームには冷静に対応しています。

――新型コロナウイルス感染症拡大後、職場が危機的な状況に陥ったりしましたか? トイレットペーパーの不足やアルコール手指消毒剤、またその他、肉や魚など商品の不足はありましたか? 会社としてどのような解決をしましたか?

 人々が一斉に「ハムスター買い」をした1~2週間はやっぱりトイレットペーパーやアルコール手指消毒剤、肉、パスタやパンが品切れになりました。会社には在庫がなく、棚は毎日空っぽになっていました。多くの利用客は、不平を言うよりはこの非常事態に理解を示し、「一緒になって支え合っていく」という優しさを表明してくれていました。新型コロナウイルス感染症がフィンランドに拡大してから1か月以上が経った現在では、状況はすべて元に戻ったと言えるでしょう。商品が品切れになることは一切なくなりました。昨年に比べると日々の売り上げは非常に増加しており、物流はちゃんと機能しています。すべてのスーパーマーケットが日常を取り戻したわけではないかもしれませんが、私の職場は多くの人が住む住宅街にあり、近くに他のスーパーマーケットもありませんので、私たちがうまくいっているのならば、他のスーパーマーケットも多かれ少なかれ同じような状況だと推測します。

――コロナ危機のストレスが原因で仕事を辞めた人などは職場にいますか?

 誰かが仕事を辞めたという話は聞いたことがないです。むしろ反対で、他の業種で仕事を失った多くの人が、ここで働けないかと問い合わせをしてきました。この1か月の間に、たくさんの新規雇用がありました。従業員は常に増え続けています。他の店舗で何人かが病欠を取ったという話は耳にしましたが、コロナと関係があるかは分かりません。

 Nさんによれば、コロナ危機によってはじめの1~2週間は品切れなどの混乱があったものの、現在はほぼ通常通りになったようです。また、昨年と比較して売り上げは上昇し、それに合わせて新しい従業員も雇用。万全の体制で営業を続けているということでした。

 そういえば筆者の配偶者も、勤務先のレストランが営業停止になった際、すぐにKマーケットの仕事に応募していましたが「応募者多数につき対応できません」というEメールでの返事が来ただけでした。

 医療従事者と並んで、自らの健康を危険にさらしながら労働するスーパーマーケットをはじめとした小売業・サービス業従事者ですが、フィンランドでは比較的安全で安定した仕事として、コロナ危機後は人気を得ています。

 それはフィンランドの労働環境の良さも背景にあると考えられます。労働環境の良さの例を挙げると、スーパーマーケットのレジの仕事を得た場合、たとえそれがパートタイムであっても有給休暇が与えられること、労働者が過労に陥らないように配慮されていること、万が一残業をする場合は割増した残業代が必ず与えられること、などがあります。

 また、フィンランドでは日本ほど敬った接客をしなくて良いため、日本と比較してフラットな関係のコミュニケーションが取れるという面でも、「お客様第一主義の呪縛」が起きづらい環境が整いやすい文化にあると言えます。フィンランドの人々にとっては「お客様は神様」というよりは、従業員も人間で利用客も人間、という意識が強いため、NさんやNさんの同僚はクレーム対応を冷静にできているのでしょう。

 日本、フィンランド、世界中の医療現場で働く人々や小売業従業員の人々への安全強化が進むことを切望するとともに、より迅速で明確かつ包括的な支援策の措置を願うばかりです。

(吉田 実)