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里帰りや立ち会い出産の不可 夫の育児参加を早めるきっかけに 産後ケアのプロが教えるデメリットばかりではない理由
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教えてくれた人:米山 万里枝
問題は新型コロナじゃない 大切なのは「夫婦で考えること」
また少数ではありましたが、新型コロナの影響が直結した悩みも。家族がテレワークとなり、在宅時間が増えて人手があるはずなのに、育児以外のことでこき使われてしまった、赤ちゃんとの静かな時間がなく気疲れしてしまった、といった相談でした。
ところが米山教授は、問題の本質は新型コロナウイルスではないと話します。
「コロナ禍以前から、『夫が育休を取得したことを周囲は褒めてくれるのに、すごく疲れている私は変なのでしょうか』といった相談を受けることがありました。計画性なく育児休暇を取ると、家事や育児はすべて妻任せで“夫の単なる休暇”になってしまうことがあるようです」
産褥期の女性は、ホルモンバランスや心身の急激な変化で、頭があまり働かない状態になることがあるといいます。出産直後はマタニティブルーになったり、その後に産後うつの症状が現れたりすることも珍しくありません。この時期の母親に対して、判断を迫ってはいけないのです。
だからこそ「夫婦で考えることが重要」と米山教授。機会があれば、ケアスタッフから夫に対して「母子へどうしてあげるのがいいと思うか」と質問したり、母親への育児指導に夫を巻き込んだりすることもあるそうです。また、父親学級への参加も大切です。
「産後うつは母親が10~15%ほどと言われますが、男性も同程度いるそうです。頑張ろうと言いすぎるとプレッシャーになるため、夫婦で支え合うことが必要です」
“里帰らない出産”は夫の育児参加意識を早く芽生えさせる
さらに、里帰り出産拒否や自粛要請で不安になっている妊産婦の対処法についても、次のように指摘します。
「パニックにならず、思考のシフトをしましょう。里帰り出産不可は、デメリットばかりではありません」
米山教授によると、里帰り出産は元々、賛否両論があるといいます。産後の母親が孤立しにくい、母体をゆっくりと休ませることができるといったメリットはある一方で、長期間夫と離れて暮らすというデメリットがあります。子育ては夫婦2人で行っていくものだと、夫の育児参加意識を早くから芽生えさせるのに“里帰らない出産”は有効だと語ります。
また、里帰り出産に限らず、立ち会い出産も同様。誕生の瞬間を夫婦で共有できる立ち会い出産は素晴らしいものですが、過剰にこだわりすぎている人が増加していたと近年感じていたそうです。
「最初から育児は夫婦2人でやる、出産は1人で臨むと頭を切り替えれば、いろいろなメリットが見えてくると思います。それに今は子育てをするお父さん、お母さんを支える公的なサポートもたくさんあります。また、ビデオ通話などの技術が発展しているので、育児の先輩である自分の母からアドバイスを聞くこともできます」
情報が多すぎる現代社会 思い込みは禁物
デジタル機器を上手に利用することもおすすめする米山教授。しかし、ここでも1つ注意点があるそう。
「現代は情報が多すぎるんですよね。不要な情報にとらわれていることもまた、たくさんあるんです」
例えば、床上げまでは暗い部屋で身体を休ませなければいけない、赤ちゃんは泣かせてはいけないと思い込んでいて、暗い部屋の隅で赤ちゃんを抱きっぱなしで食事もままならなくなった母親や、保育園は送り迎えを考え自宅近くでなければならないが空きがない、と悩み込んでいた父親がいました。
こうした時には、付き添って外出することを提案したり、勤務先に託児所はないか質問したりするといいます。すると、どちらのケースも相談者は心から驚いた顔をすることが多いようです。
「客観的に聞いていると、すごく簡単なことに思えますし、なぜ気付かないんだろう? って思いますよね。産後ケアはちょっとだけ支えてあげることが大切なんです」
どうやら担当の医師や助産師に「何度も質問や相談をしてはいけない」と思い込んでしまっている人も少なくないようです。「何度だって聞いてもいいのよ」と繰り返し伝えると、次第に変化していく人が本当に多いのだとか。
「あなたは1人ではないということを忘れないでください」と米山教授。妊娠中からしっかりと夫婦で計画を練り、訓練をすることも大切ですが、なによりも「かかりつけの病院など、近くのプロを頼ってほしい」と強調します。
(Hint-Pot編集部)