インタビュー

【私の家族】人気作詞家・及川眠子 離婚時に平常心を保てたのは猫のおかげ 「ただそこにいるだけ。それが心地いい」

著者:弓削 桃代

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おっとりして人懐っこい「サジ」と、人見知りが過ぎる「レンゲ」

“猫詩”写真集「猫から目線」(KKベストセラーズ)【写真:KKベストセラーズ】
“猫詩”写真集「猫から目線」(KKベストセラーズ)【写真:KKベストセラーズ】

 アメリカンショートヘアの子は「サジ」、ロシアンブルーの子は「レンゲ」と名付けました。名前の由来は、スプーンです。

 元々、自分に子どもが生まれたら「匙」って付けようと思っていたんです。ヨーロッパの言い伝えで「銀のスプーンを持って生まれてきた子は幸せになれる」という言い伝えってあるでしょう? みんな出産祝いに贈ったりしますよね。だから、私のところに最初に来た猫だからサジと付けて。次に来た子は「そしたらレンゲかな?」と思って付けました。見た目どうこうではなく、どちらもスプーンが由来なんです。

 サジはおっとりしてて人懐っこい子、割とぼんやりした猫でしたね。レンゲは、異常なまでの人見知りで、飼い主以外には姿を見せないし、一切懐かない。友人が家に来ても「何か今、黒いものが横切ったけど?」って言われたことも(笑)。

 仕事で家を留守にすることもあるので、そういう時はペットシッターさんにお願いしています。そのシッターさんが、レンゲに触るまで3年かかったそうです(笑)。姿を見せてくれるまでに2年かかったそう。ロシアンブルーってそういう子が多いのかも。だから「姿が見えなくても気にしないでください。エサを置いて水を換えて、猫用のトイレ掃除をしてください」って伝えていました(笑)。

 サジは懐っこいけど、人の膝の上に乗るのは私にだけですね。私の母の膝ですら乗りません。猫は気に入っている人、好きな人にしか懐かないみたい。レンゲは一度認識して「この人大丈夫だな」って思うと心を許すんですね、そこまでが本当に長いけど(笑)。

 私は普段、猫が来たら触るくらいなのですが、寝る前は触りたくなるかな。無理やり一緒に寝ようとして連れて行こうとすると、すっごく嫌がられます(笑)。冬場は暖房で暖かい寝室に来ますが、布団には現在飼っている2匹の猫を含め、どの猫も入らないですね。上に乗ってくるかな。6キロに乗られたら……脚が動かないですよ(笑)。

 サジだけは暑くても寒くても、私の頭のすぐ近くで寝ていました。常にくっついていたり寄り添ったりする感じではないんだけど、「何かいる」っていう。空間の中に何か自分以外のものがいて、それが居心地いいんですよね。

生きている間にかわいがってあげることが最大の愛情

 サジは12歳で亡くなって、レンゲが残されたんですが「何でいないんだろう」っていうくらいで、たとえばそのことでレンゲがごはんを食べられなくなるとか、そういうことはなかったですね。猫の関係性は、飼い主とのつながりが主だからでしょうね。

 レンゲはその後5年生きて、17歳で亡くなりました。レンゲはとても頭が良くてきれい好きな子だったな。歳でもう身体がつらくて動けないのに、這いつくばってトイレに行く。トイレまで行ってそこで用を足したら、耐えられなくなって近くで倒れるんです。トイレまで行かなくてもいいようにペットシーツを下に敷いておいても、絶対そこでしませんでした。最後まで賢い子でしたね。

 私は、基本的に何に対しても執着をしない人間なんです。だから飼い猫が死んで、もちろん悲しさや寂しさはあるけど、お骨を持っておきたい、ずっと家に飾っていたいとか、そういう風には思わないんですね。だから亡くなったら、お寺にすぐに引き取りに来てもらって、合同葬にしたんです。

 人によって考え方はさまざまですが、私は生きている間にかわいがったら、それ以上のものって何もないと思うから。でもサジがいなくなってレンゲもいなくなって、足元にまとわり付くものがいなくなるという寂しさ。家に帰った時に迎えに来ることがなくなった物悲しさ。そういうものはありましたね。

そばにいてくれたから自分を見失わなかった もはや家族みたいな存在

 レンゲにはいろいろなことを助けられました。前の夫と別れる時、とてもつらい日々が続きましたが、猫がいたからどうにか平常心を保てたのかなと思います。

 猫は、放置しておくと死にますから。ごはんや水をあげないと。だから、起きたくなくても朝起きないといけないし、トイレの砂がなくなったら買わないといけない。そこで均衡を保つんです。

 離婚のゴタゴタの最中、日常を生きていけるように自分のバランスを保てたのは、あの子たちがいたからかもしれない。結局、私を救ってくれたんです。猫は何もしないですけどね、ただそこにいるだけ。でも、一緒に暮らしていると、だらしなくなったらダメなんだなって、思いました。家族に近い存在だなと感じましたね。

◇及川眠子(おいかわ・ねこ)
1960年2月10日生まれ、和歌山県出身。1985年三菱ミニカ・マスコットソング・コンテスト最優秀賞作品、和田加奈子「パッシング・スルー」でデビュー。Wink「淋しい熱帯魚」(1989年度日本レコード大賞受賞)、新世紀エヴァンゲリオン主題歌「残酷な天使のテーゼ」(2011年JASRAC賞金賞受賞)などヒット曲多数。著書には「破婚~18歳年下のトルコ人亭主と過ごした13年間」(新潮社)、「誰かが私をきらいでも」「猫から目線」(ともにKKベストセラーズ)などがある。

(弓削 桃代)