カルチャー
芦田愛菜が16歳でたどり着いた“信じること”の意味 居住まいで表現する演技に圧倒される主演作『星の子』
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震える身体でちひろが見据えようとしたものとは
芦田愛菜は構築した理論を、セリフではなく、むしろ居住まいで表現しようとしていたのかもしれない。スクリーンの中で震える彼女は、そこから多くのものを見ようと首を伸ばし、吹き荒れる風に耐え、新たなる視点を見出そうとしているようにすら感じさせた。
原田知世と永瀬正敏が演じた、子どもを愛するがあまり個の欲を失い、信仰という全体感に取り込まれている両親。そして、高良健吾と黒木華が演じたアルカイックなスマイルとともに全能感を漂わす団体幹部のありさまが、芦田愛菜の輪郭を際立たせたのかもしれないが。
原作は、第39回野間文芸新人賞を受賞した小説「星の子」。昨年、「むらさきのスカートの女」で芥川賞を受賞した今村夏子が2017年に出版した作品だ。主人公が、新興宗教の熱心な信者を家族に持つ人間を描く小説といえば、村上春樹の2012年の小説「1Q84」がある。
村上春樹は、9.11後の世界を描くものとして「1Q84」を書いたと言っているが、『星の子』にもそれがさらに強く感じられた。“恐怖”と“怒り”が人々を動かし、“価値”が大きく変わり始めた今だからこそ、怒りや恐怖に流されそうな者を食い止め、価値観の揺らぎに付け入ろうとする者に別の視点を示すことが必要なのではないかと。
ちひろという少女を通して、今村夏子が、大森立嗣監督が描こうとしたのは、それなのではないか。ただ、それらは勇者が与えるものではなく、一人ひとりの思考がもたらすもの。震える身体でちひろが見据えようとするのは、まさしくそれなのだと思う。そして芦田愛菜は、私たちにもちひろとともに『星の子』を体験させようとしている。そう思われてならなかった。
『星の子』10月9日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。