ライフスタイル
東京は異常事態? 意外と知らない自転車の交通違反とは… “ガチ”の講習会に潜入してみた
公開日: / 更新日:
普段の利用はもちろん、近頃はコロナ禍での“3密”回避や宅配サービスの普及などでも注目が高まっている自転車。一方で自転車が関係する事故も増加しており、警察や行政は手を焼いているそうです。中でも東京都は自転車関連の人身事故が事故全体の約4割と、全国ワーストを記録しています。そこで東京都は、事業者向けの講習会「自転車安全利用TOKYOセミナー」を定期的に実施中。気になるその内容はどのようなものなのか? セミナーに参加し、急増する自転車事故の実態に迫りました。
◇ ◇ ◇
交通ルールは「自分だけが守っていても意味はない」
東京都の「自転車安全利用TOKYOセミナー」は、都下の自治体に協力を依頼して定期的に開催されているもの。今回は練馬区役所本庁舎の最上階、東京スカイツリーなどを一望できるフロアの会議室で行われた。“事業者が従業員に対して自転車安全教育を行うためのセミナー”とあって、座席に用意されていた紙資料は想像以上の厚さ。今回は夜から開催のため約1時間半の簡易版だったが、午後から開催するものは何と2時間40分もあるそうだ。
これはさぞかし“ガチ”の内容なのでは……との予想を裏切らず、講師として登場した中央大学研究開発機構の稲垣具志准教授、日本交通安全教育普及協会の加藤重樹氏の2人は熱の入った講義を披露。基本的な自転車の交通ルールやマナーの確認だけでなく、なぜ事故が起こりやすいのか、事故を防ぐためにはどのような意識付けが必要なのかといった専門的な講義がなされた。
稲垣准教授は区とも協力して自転車安全利用の普及に努めているため、まずは豊富な事例と研究によって導き出された大前提を提示した。それは「自転車はとんでもなく主観的な乗り物」という事実だ。
「自転車はとんでもなく主観的な乗り物なんです。真夜中の人気のない見通しのいい交差点でも、ほぼすべてのドライバーは赤信号で止まりますが、これが自転車だと信号無視して渡る人の割合が増えるんです」(稲垣准教授)
いや、まったくその通り。車の運転時なら守るルールを、自転車ではなぜか守らない。このため稲垣准教授は、数々のデータを使って「他者からの視線」を意識する客観性を加えることを重要視した。データの種類はドライブレコーダー映像や事故が多い交差点で実施した定点によるものなど。これを知ることで、自分がルールを守っていても相手が守らなければ事故に巻き込まれる、という普遍的な事実も同時に理解できる。
「私はルールを守っている、と自称しても、相手が守っていなければ意味はありません。交通社会とは、さまざまな乗り物をさまざまな心理で運転する人たちが形成するもの。このため、相手の心理や行動を知ることで、事故を回避できる確率を上げることができるわけです」(稲垣准教授)
安全利用セミナーだけにルールをきっちり教えられるのでは、と考えていたが、どうやらそうではないらしい。稲垣准教授は車が左折する際の事故を例に取り、ドライバーがしっかり確認した後の場所に自転車が飛び込むと事故が発生しやすいと説明した。客観的に考えてみれば確かに、ドライバーは左右両側を一度に確認できない。
続いて講義を行った加藤茂樹氏も、ルールの理解に加えて客観性を重要視していた。たとえば自転車が歩行者相手に事故を起こした場合、誰にどのような影響を与えるのか? 自転車側が勤め人なら、会社や上司、同僚、顧客、家族、被害者、被害者家族など、改めて考えてみるとその範囲は広い。
これを踏まえて自身の行動を客観視した後は、行動の改善だ。例えば「急いでいたから」ルールを無視したのならこう考える。なぜ急いでいたのか? 急がないためにはどうするべきか? 根本から順に行動を見直すことで、事故防止の意識を高めていくというわけだ。