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波瑠がラブホテルの若女将に 監督が「キャスティングの勝利」と語る『ホテルローヤル』で見せた演技とは
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国内外を問わず、数多くの物語で舞台として選ばれているホテル。これまでの人生も現在の立場も異なる人々が“一つ屋根の下”となるホテルでは、必然とも偶然とも言いがたい物語が生まれやすいものです。本作の舞台は、釧路の古びたラブホテル。昭和的ムードと閉塞感を覚える外観ですが、やはりここでも今を生きる人たちの強い物語が生まれました。その軸となる若女将役は波瑠さん。感情を押し殺した無言の演技、そしてホテルと世間の距離感は、コロナ禍にある私たちに大きなメッセージを与えてくれるようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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直木賞作家・桜木紫乃さんの自伝的小説を映像化
釧路の湿原を見下ろす場所に建てられたラブホテル、その女将となった娘の物語『ホテルローヤル』。直木賞を受賞した桜木紫乃さんの自伝的な小説を、『百円の恋』(2014)や『アンダードッグ』(2020)の武正晴監督が映画化した作品だ。
娘の雅代を演じるのは、NHK連続テレビ小説「あさが来た」(2015)や『弥生、三月 君を愛した30年』(2020)の波瑠。意志の強い美しきヒロインを演じてきた波瑠とラブホテル。なかなか一致しないイメージだが、それが本作のテーマを一層際立てるポイントとなっている。「これはもうキャスティングの勝利」と武監督が言うのも無理はない。
一般的なラブホテルには欲望を抱えた人々が訪れるが、ホテルローヤルを訪れる客は決して特別な存在ではない。子育てと姑の介護で日常が埋められた中年の妻と夫、ともに行き場を失ってこの世に絶望している女子高生と教師、そしてうだつの上がらない人生を彼女のヌードを撮ることで立て直そうとする男。誰しも、他人の目や耳を逃れたここでやっと、本当のことを話し、本当の自分をさらけ出せる普通の人々だ。
彼らを弱い人間などと言うことはできない。どんな形であろうと、他人と寄り添うのは力のいることだ。ましてや新型コロナウイルスの影響下にある現代、そこに行き着く術さえ見つけにくい。