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「性差(ジェンダー)の日本史」展はなぜ話題? アラサー男性記者が潜入レポ

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 佑輔

歴史の過程で“弱者からの搾取”に結び付いた「身売り」

 一連の歴史背景とは別軸ながら、多くのスペースが割かれているのが第6章の「性の売買と社会」。売春は人間の本能に由来した行為との見方もあるが、「少なくとも古代には性の売買はなかった」と横山教授は言う。

「古代は婚姻関係そのものがゆるやかで、性を売り買いするという考えもなかった。中世になると遊廓ができますが、彼女たちは売春だけしていたわけではなく、和歌や芸能のプロ。社会的な地位も低くなく、差別的な見方はありませんでした」

 遊女が商品化されるようになったのは近世だ。織田信長の「安土日記」には、すでに女性をさらい売り飛ばす描写があるという。

「江戸時代になると幕府の管理のもと、借金のカタに売られてきた女性たちが莫大な税収源となる一大産業になり、国家公認の商売として行政にも大きな影響を与えていました。モノ扱いされていた女性たちは明治になって解放されるんですが、負債を抱えるために実質的な身売りは続いた。自由意志という建前のもとで、彼女らへの同情は薄れ、代わりに淫乱な女だという蔑視が進んでいきました」

 近代公娼制度では、警察による梅毒検査が徹底され、利用客もすべて帳簿で管理。ピーク時は何と年間延べ3000万人以上が利用していたという。法律で性交を伴う売春が禁止されたのは1956年。性の売買が、歴史の過程で弱者からの搾取と結び付いていったことが生々しく分かる作りとなっている。

 この展示はなかなか筆舌に尽くしがたいものがあった。例えば、困難なことが起こると“社会的な立場の弱い女性のところにシワ寄せが行く”という事実。これは現在、一般的化してしまっているのではないだろうか。

この展示が話題になること自体が縛られていることの表れ

 今回の展示の意図について「ジェンダー史の連続性を説明したいわけではないんです」と横山教授。「そこまで研究が進んでいないということもありますが、むしろ、制度が変われば社会はいかようにも変化するということが伝わるように。今の若い世代が感じている性に基づく生きづらさだって、決して普遍的なわけではありません。時代で変わる、変えられるものがたくさんあるということにも気付いていただけるかなと思っています」とその狙いを語る。

「今回の展示は大変好評をいただいており驚いていますが、裏を返せばこれが話題となること自体、日本に生きる私たちがジェンダー意識に縛られていることの表れ。コロナ禍で、弱い者へシワ寄せが来ることの矛盾を感じている人もいるのかもしれません。歴史に興味のある年配の方だけでなく、若いカップルや男性同士、女性同士でいらっしゃる方もいますよ」

 ジェンダーへの意識が低かった記者自身、多くの発見があった今回の展示。やはり男性側の理解が遅れているのだろうか。

「男性がということはなく、男女ともに無意識のジェンダーにとらわれているところがあるのでは。もっと言えば、100人いれば7~8人の人たちが単純に男女で区分できないアイデンティティの揺らぎを感じている現代で、『男が』『女が』という視点自体がナンセンスではないでしょうか」

 そういえば編集部の某女史は、「若い男性の視点が欲しい」とこの企画を立ち上げたが、それもまたある意味では「縛られていた」ことにもなる。これは早速報告しておきたい。以前から、広告やSNSなどでのジェンダー表現に関する批判、炎上は絶えない。「ジェンダー」というといかにも男女で“対立”しがちなテーマに思われるが、“男女”ではなく“個々”の視点に立って、ジェンダーレスかつボーダーレスな議論が交わされるようになる日を目指したい。

展覧会名:企画展示「性差(ジェンダー)の日本史」
会期:2020年10月6日(火)~12月6日(日)
会場:国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市城内町117)
<企画展示会場内の混雑防止のため、会期中の土・日・祝日、終了前1週間につきましては、ウェブからのオンライン入場日時指定事前予約を受け付けています。事前予約をされた方は、ご希望の時間にご入室いただけますが、ご予約のない方も、定員に達していない時間帯は、当日来館しての時間指定が可能です。ただし、事前予約が優先となり、来館時には予約枠が定員に達して入室いただけない場合がありますので、事前予約されることをお勧め致します。詳細はhttps://www.rekihaku.ac.jp/exhibitions/project/procedure.html

(Hint-Pot編集部・佐藤 佑輔)