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右手首から先がない息子も「プロ野球選手への道がある」 ロッテ美馬投手と妻アンナさんが感じる“使命”

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

スポーツを通じて、どこかにある見えない壁のようなものを取り除く

 今、スポーツ界は健常者がするスポーツと、障がい者がするスポーツとで大きく分けられています。健常者と障がい者が同じ土俵でプレーし、同じ指標で評価されることはまれなこと。

「もちろん、安全面など考慮するべきことはありますが、健常者と障がい者が別の指標で評価されるのには、障がい者は健常者と同じようにはできない、っていう思い込みがあるんじゃないかと思うんです。でも、障がいを持っていても、強豪校で4番を打つ人もいれば、プロ選手が驚くようなボールを投げる人もいる。昔は今よりもっと障がいを持つ方が過ごしにくく差別された時代だったと思います。でも、これからは違う、と私は思っていますし、そういう未来を作るお手伝いをしたいなって。

 障がい者がどう頑張っても健常者に勝てないことはいっぱいあると思うんです。ただ、だからといって、障がい者の選択肢が狭められてしまうことがないように、垣根のない同じ価値観で評価されるきっかけや舞台があってもいいんじゃないかと思うんです」

 最近、街で「ダイバーシティ=多様性」という言葉を、よく耳にすることはありませんか。人種、国籍、宗教、性別、年齢などの違いで差別や攻撃をするのはやめ、逆に互いの個性を認め合いながら多様さを生かしていきましょう、という社会の動きです。日本だけではなく、世界各地で急速に広まっている価値観で、遠くない将来、世界のスタンダードとして浸透するでしょう。この価値観から考えると、健常者と障がい者を分ける壁がなくなるのも時間の問題かもしれません。

「プロ野球選手が障がいを持つ子どもたちを訪問して『頑張れば、プロ野球選手になる道だってあるんだよ』と教えてあげたり、健常者と障がい者の子どもたちが一緒に野球をして遊ぶ機会を作ってあげたり。どこかにある見えない壁のようなものを取り除いて、みんな一緒に何かができればいいなと思っています。

 例えば、プロ野球選手が障がい者野球の子どもたちの姿を見て、体の使い方やバランスの取り方とか、思いもよらないところで学ぶことはいっぱいあると思うんです。うちの旦那さんも動画を見て『すごい……』と驚いていますから(笑)。

 子どもたちも、障がいを持つ子どもは健常者と同じ舞台に立てるだけでもうれしいでしょうし、自分がうまくできたらもっとうれしいはず。健常者の子どもも、障がいを持つ子どもが工夫しながら、上手に野球をする姿から刺激を受けると思うんですよね。健常者の方がうまくできることもあれば、障がい者の方がうまくできることもある。お互いを認め合い、リスペクトするきっかけ作りのお手伝いをしていきたいと思っています」

 インスタグラム上での呼びかけに対して、アンナさんの想像を超えるたくさんの反響があったといいます。先天性欠損症を持って生まれた人、先天性欠損症の子どもを持つ親、障がいを持ちながらスポーツで頑張る人、義手や義足の制作に携わる人……。「自分のメッセージが思っている以上にたくさんの方に伝わっているんだって思ったら、すごくうれしかったです」と、アンナさんは感謝の気持ちを伝えます。

ミニっちという宝物が気付かせてくれた「使命」

 野球やスポーツを通じて、健常者と障がい者をつなぐ活動をするだけではなく、障がいを持つ子どもの家族が意見交換や情報共有をできる場も作っていきたいというアンナさん。ミニっちと同じように右手のない大学生の女の子から、こんなメッセージが届いたそうです。

「『アンナさんのインスタを見ていると、自分の母の気持ちを聞いた時を思い出します』っていうメッセージだったんです。もし私のありのままの投稿が、彼女に悲しい思いをさせてしまっているのであれば、言葉を選びたいと思って伝えたら『そんなことはありません。私はむしろ、この境遇に生まれて良かったって思っているんです』って。子どもがこう言えるって、親御さんの育て方が素晴らしかったんだと思うんですよね。

 お腹にいる時から障がいがあると分かっていた人もいれば、生まれた時に分かった人もいる。みんな最初はどんな気持ちだったのか、どうやって立ち直ったのか、子どもに『何でみんなと違うの?』と聞かれた時に何て返事をしたのか。私は経験をした人の話を聞いてみたいですし、そう思っている人も多いんじゃないかなって思います」

 今、障がいを持つ人々はもちろん、これから障がいを持って生まれてくる子どもたちの未来のためにも、次から次へとあふれ出るアイデアを具体的な活動として実現させていくこと。それこそが「私の使命」とアンナさんは考えています。その一環として、これからも飾らぬありのままの姿や揺れ動く心を、インスタグラムから発信していく予定です。

「プロ野球選手の奥さんだったり、タレントや歌手だったりって、キラキラしているイメージがあるみたいなんですけど、同じ人間。悔しいこともうれしいこともあります。悩みだってあるし、挫折もあるけど、みんなやっぱり嫌な部分は見せないで、きれいな部分しか外に出していないですよね。

 ただ、私にはありのままの自分や家族の姿を見せることが合っている。悪いことがあるからいいことがあるし、いいことがあるから悪いことがある。その繰り返しだから、正当化してきれいなものだけ見せるのは、私たち家族には合っていないんです。ミニっちが生まれてから、より強く感じるようになりましたね。

 障がいを持つ子どものご家族の中には、自分の子どもを見世物にしたくないって思う人もいるでしょうし、みんなが同じ考えだとは思いません。でも、私と同じような考えを持っている人もいると思うので、何か形にしていきたいと思っています」

 ミニっちを授かってから1年余り。この間にいろいろな感情と戦いながら経験を積み、母として、妻として、そして1人の女性として深みを増したアンナさん。ミニっちという宝物が気付かせてくれた「使命」を果たすためにも、しっかり前を向きながら一歩一歩進んでいきます。

(終わり)

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)