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女性2人による「限りなく対等」な奇跡の恋愛 誰にでも初恋のときめきを思い出させる『燃ゆる女の肖像』

著者:関口 裕子

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『燃ゆる女の肖像』12月4日(金) TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開 配給:ギャガ (c)Lilies Films.
『燃ゆる女の肖像』12月4日(金) TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開 配給:ギャガ (c)Lilies Films.

 自分の世界に、ある日するりと入り込んだ他人。いつの間にか視線で追い、また見つめられたいと思っている自分に気付く……。多くの人が経験する恋のときめき。年齢や性別には関係なく訪れるこの瞬間は、年を重ねても甘酸っぱい記憶として残るものでしょう。18世紀のフランスで女性同士の恋愛を描いた本作は、この瞬間を性別や年代を超えて感じさせてくれるようです。また、監督が過去の女性アーティストたちに寄せる思いも必見。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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過去の女性アーティストたちへのオマージュと奇跡の恋愛 監督が込めた2つの思い

 初めて人を好きになったこと、初めてキスをした時のことを思い出し、少し胸が苦しくなるような映画『燃ゆる女の肖像』。恋をした相手も自分を好きだと分かっただけで、得たような気がした全能感。忘れかけていたそんなときめきを味わわせてくれる作品だ。

 女性が将来を自由に決められなかった18世紀のフランス、画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は1人、ブルターニュの孤島に向かった。伯爵夫人(ヴァレリア・ゴリノ)から、娘エロイーズ(アデル・エネル)がお見合いで使う肖像画を依頼されたからだ。

 結婚を望んでいないエロイーズは、マリアンヌの前任となる男性画家に一度も顔を見せなかったため、絵は完成しなかった。だから、散歩相手として観察し、肖像画を完成させてほしいという。さらにマリアンヌは、召使いのソフィ(ルアナ・バイラミ)から、お見合いはエロイーズの姉に来ていたものだったが、姉の自死により修道院から呼び戻されたと聞かされる。

 監督のセリーヌ・シアマは、本作に2つの思いを込めている。1つは、才能がありながら歴史のメイン舞台に名が残されていない女性アーティストたちへのオマージュ。画家マリアンヌというキャラクターは、肖像画の流行した18世紀に多くの女性画家が存在した事実から生まれた。

 だが、名前の残る画家はマリー・アントワネットの肖像画を描いたエリザベート・ヴィジェ=ルブランなどごく一部。シアマ監督は、作品が匿名性を運命付けられていることに「悲しみを感じた」と語っている。「彼女たちの作品に、私の人生に欠けていたものを見つけ、心がかき乱され、深い感動を覚えました」と。同じアーティストとして、そんな匿名の画家たちに光を当てたいと思ったのだろう。

 もう1つのテーマは「限りなく対等」という、奇跡の恋愛について。一般的に、恋に落ちると思いの強い方が翻弄されがち。また保守的な男女の場合は、男性が主導権を握るケースも多い。

 シアマ監督は、対等な恋愛を画家とモデルとして出会った女性たちの間に描こうとした。「目の前にいる人の心に憧れ、驚き、それが言葉を生み出し、きらめいていく様を知的なプロセスで描きたかった」と。それを視覚からも表現するために、エロイーズ役に当て書きしたアデル・エネルと同じ年齢、身長、インパクトを持つノエミ・メルランをマリアンヌ役に決めたという。