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女性2人による「限りなく対等」な奇跡の恋愛 誰にでも初恋のときめきを思い出させる『燃ゆる女の肖像』
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鬼才の若手監督グザヴィエ・ドランがインスタグラムで絶賛
肖像画を描くためにマリアンヌは見つめる。エロイーズのシニヨンにした髪、耳の軟骨、肌の色、力強くも温かく澄んだ瞳を。見つめ/見つめられることで、音楽や文学について語り合うことで、2人の気持ちは近付いていくがすぐに恋へと移行しない。
見られるエロイーズはマリアンヌを意識するが、その熱い視線は画家ゆえのものだと知り、“落胆”というこれまで経験のない感情を味わう。一方、マリアンヌは肖像画を見せて、エロイーズに正体を明かすが、「似ていない」と批評され、もう一度描きたいと申し出ると同時に、自分にとってエロイーズがただのモチーフではないことに気付く。
思う通りにならず、満たされない気持ちを味わうが、それでも相手と同じ時間を過ごし、語り合い、見つめ合い、認められたいと切に思う。それが恋だとシアマ監督は表現する。
前任者から受け継いだ絵を破棄したマリアンヌは、伯爵夫人が出かける5日間を猶予としてもらい、エロイーズもモデルとして相対すことを約束する。そこから肖像画の作業だけでなく、2人のぎこちない恋もスタートした。肖像画が完成する5日後には、永遠の別れが待っていることを了解しながら。
世界で最も注目される若手監督の1人、グザヴィエ・ドランがインスタグラムで絶賛していたのも分かる、知性と衝動が絶妙な具合で描写されたラブストーリー。フランス革命約10年前の、自治権が揺らいできたブルターニュの貴族の物語という視点。ポケットのある赤いドレスのマリアンヌと肖像画に描かれる緑のドレスのエロイーズの衣装的メッセージ。日常音のみで構成される中、印象的に登場するヴィヴァルディ協奏曲第2番ト短調 RV 315「夏」と、島の女たちがかがり火を囲んで歌う「La Jeune Fille en Feu(炎の少女)」。
深堀りポイントの多い本作は、身を映画にゆだねて観るだけでなく、一つひとつの意味を探りながらもう一度観たいと思う傑作だった。
『燃ゆる女の肖像』12月4日(金) TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開 配給:ギャガ (c)Lilies Films.
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。