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俳優として“かなり熱い”北川景子 『約束のネバーランド』で漫画実写化に再トライも感じていた不安とは?

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

北川演じるイザベラ 瞳の奥に何の感情も宿さない微笑みが観客を圧倒

 観客を圧倒するのは、北川演じるイザベラの、瞳の奥に何の感情も宿さない微笑みだ。微笑みが美しければ美しいほど、状況に気づいた子どもたちの絶望の深さが伝わってくる。イザベラを完璧に演じた北川だが、役を受ける時に躊躇したという。

「年齢も近いイザベラにとても惹かれましたし、こんな面白い漫画は初めて」だったそうだが、確固たるイメージがある原作のファンに受け入れられるのか、という不安。漫画原作の作品を映像化することの難しさはどんな俳優も嫌というほど理解しているとした上で、「今回このネバーランドの世界観を漫画のクオリティを損なうことなく実写化するというのは不可能なのではないかという思いがありました」と語っている。

 また、これは矢沢あい原作の『パラダイス・キス』(2011)で、コミックの映画化作品に初めて臨んだ時にも感じた不安でもある。決断の大きな要因は「以前一度ご一緒した平川雄一朗監督とまた現場を踏んでみたいという思い」に加え、イザベラの年齢設定やキャラクター含め、原作の設定を一つも変えないという確約をもらったことだという。

 もちろん実写化は無謀だと思われたこの原作を着地させるには、撮影の今村圭佑、美術の清水剛、VFXスーパーバイザーの太田貴寛、衣装、ウィッグさまざまなスタッフの力と、孤児院や森のイメージそのままのロケ地が貢献している。

20歳の女優・浜辺美波の軌跡としても見逃せない作品

 しかし何といっても大きいのは、“フルスコア”と言われる優れた運動神経と学習能力を持つ3人の子どもたち、エマ(浜辺美波)、レイ(城桧吏)、ノーマン(板垣李光人)を演じた3人の存在感だ。彼らが、ファンタジーとリアルをつないでみせた。

 特に浜辺美波、おそるべし。子どもにも大人にも、天使にも悪魔にもなれる20歳。そんな浜辺の軌跡として見逃せない映画でもある。また、城桧吏は『万引き家族』が少年役だったと聞けば、「なるほど」と思う映画ファンも多いだろう。

 また、本作で感じたのは、なぜ“脱出もの”が流行るのだろうということ。その場にあるものからヒントを得て脱出を試みる“リアル脱出ゲーム”の流行。脱出がモチーフとなる日本映画も、中村倫也主演の『人数の町』、坂口健太郎、永野芽郁共演の『仮面病棟』、橋本環奈主演の『シグナル100』と今年だけで数本ある。

 若者たちは今、何から逃げたいと思っているのか? 自分に問いかけずにはおれないが、ここでは私の考察は明記せずにおきたい。本作の裏テーマを、ぜひ一緒に考えていただきたいから。そこに目をそらしてはいけない重要な要素が隠されている。そんな気すらしている。

 
『約束のネバーランド』 2020年12月18日 全国東宝系にてロードショー
(c)白井カイウ・出水ぽすか/集英社(c)2020 映画「約束のネバーランド」製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。