インタビュー

パラ競泳・一ノ瀬メイ選手とロッテ美馬投手の妻・アンナさんが対談 先天性欠損症という「障害」への思い

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

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「障害者にされた経験はあります。でも、自分のことを障害者だとは思っていません」

――一ノ瀬選手は今まで自分のことを障害者だと思ったことはないとお聞きしました。

メイ:障害者にされた経験はあります。でも、自分で自分のことを障害者だとは思っていません。別に自分を「障害者」という括りに入れる必要はないと思っているから。例えば、自分について説明してくださいって言われた時に「障害者です」って答える人はいないと思うんですよね。私は右腕が短いです。それだけだから。元々みんな生まれながらに違う個性を持っているし、逆にみんな一緒だったら気持ち悪い。少しずつ違うのが個性でいいのに。

アンナ:他の人とは違う個性を、周りが勝手に「障害」だと決めている部分はあるでしょうね。

メイ:そもそも全部を白黒で二分して考えるのは危ないと思っています。世の中は健常者と障害者だけではなく、障害も肌の色も全部グラデーションじゃないかと思うんです。健常者と障害者の場合、そのグラデーションの両端は「健常と障害」かもしれませんが、その間には黒寄りのグレーがあったり、白寄りのグレーがある。みんなそれぞれカラーが違う中で、どちらかの色に近いから「はい、あなたは障害者」と決めつけるのは危ない。グラデーションの中でどこに位置するかは人それぞれ。腕が短いのも、身長が低いのも一緒だと思うんですよね。

――スポーツの世界では健常者と障害者とで線引きされていることが多いですね。

メイ:それに関しては、私が最近本当に悩んでいるところなんです。「みんなそれぞれ違うし、線引きをするのはおかしい」っていう考えに自分の中ではたどり着いていて、人をカテゴライズするのはやめようよって発信をしていきたいんですけど、パラリンピックでは障害によってクラス分けがあるんですね。私は障害が2番目に軽い「S9」クラス。でも、去年クラス分けの見直しがあって、障害が一番軽い「S10」から私より100メートルが10秒も速い世界記録を持つ選手が「S9」に移ってきたんです。

 今まで「こういうクラス分けは正しいんだ」と信じながら競技に向き合ってきました。ですが、他人が決めたルールで一気に自分自身を取り巻く状況が変わってしまう経験をした時、私は区分けをなくしたいと言っているのに、その私が他人の決めた区分けの中で戦っている現実に直面して、心の中の整理に限界を感じてしまったんです。

アンナ:確かにすごく難しいですね。ただ、一ノ瀬選手が泳ぐ姿からたくさんの人が勇気をもらっていると思うんです。

メイ:そう言ってもらえるのは、すごくうれしいです。でも、メディアに出させてもらう時も「障害者」っていう言葉がついて回るのは面倒臭いなって思うこともあって……。腕が短いっていう特徴がある1人の人間なのにパラリンピック選手だと、生い立ちや障害を乗り越えたというストーリーがついて回る。すでに用意されている「障害者枠」を埋めにいっているだけのような気がするんですよ。

 私はそれをダイバーシティとかインクルージョンとは思えなくて。例えば、お天気お姉さんが車いすとか、クイズ番組に出演する人が1人ダウン症だとか、月9のドラマで主人公の友達が義足だとか、そういう健常者が埋めていた枠を障害者が埋めていくのが、私の中のダイバーシティなんですよね。今、テレビで障害者を見る機会ってスポーツ選手がほとんどでしょう。それって何か面白くない。水泳選手はこれからも後輩がたくさん出てくるし、自分は本当にここに努力を注ぎたいのかなって考えるんですよね。

アンナ:う~ん、もったいない気がする……。私は一ノ瀬選手を知ってから息子と水泳を始めたんですけど、そういう人もたくさんいるのかなって。だから、言い方は変かもしれないけど、自分の想いを伝えるために水泳と手を武器にしていくのがいいんじゃないかなって思うんですよね。

 インスタでモデルさんのお仕事に興味があるって言ってましたよね。私も少し芸能界のお仕事をさせてもらう中で、俳優さんやモデルさんをする障害者って本当にいない。でも、一ノ瀬選手はその先駆けになれるかもしれないって思ったんです。生まれ持った華やかさや発信力があるし、今まで誰も踏み込めなかったところに踏み込める強さがある。ただ、踏み込むためにはまず、いろいろな人を納得させることが大事。そのためのツールとして水泳を使ってもいいのかなって。

メイ:そう、私もそう思い始めたんです!

アンナ:水泳で世界を相手に戦うなんて誰でもできることではないし、今まで重ねた努力や乗り越えてきた壁もある。だから、それを武器にできれば、さらに道が拓けるんじゃないのかな。何かを始める時って、みんなきっかけがあるはずだから、一ノ瀬選手が水泳と手を通じていろいろな人のきっかけを作っていければ夢が広がりますよね。

メイ:心の整理がつかない中で、将来やりたいことに繋げてくれるのも水泳だということも分かっているんですよね。自分が今、持っているプラットフォームを存分に生かし切った時、次のステージが開けるっていうのは、なんとなく思っていて。でも、なんか難しいですよね……。

アンナ:発信は止めないでほしいですね。私、最近すごく言霊を感じているんです。33年生きてきて、息子が生まれてからのこの1年間、一番自分の夢を口にしている。でも、今日の対談もそうですけど、言葉にすることで本当に叶うことがあるんですよね。一ノ瀬選手は言葉に力があるし心があるから、いろいろな人に想いが伝わると思います。うわべだけの言葉じゃないから。

メイ:うわべだけで言えへんの(笑)。バカ正直やねん。

アンナ:私もそう!(笑) でも、正直に言えることって才能だと思うんですよね。

<アンナさんとメイさんのお話はまだまだこれから! 第2回に続きます>

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)