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ワンダーウーマン女優の“刺激的な”人生 「人が命を落とさないヒーロー映画」はなぜ生まれたのか
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強く凛々しく、誰もが憧れる正義のヒーロー。長年の定番ジャンルですが、描かれるヒーロー像は時世に合わせて変化を続けています。DCコミックのスーパーヒーローも、シリーズを重ねるごとにさまざまな個性がはっきりしてきました。中でも女性ヒーローのワンダーウーマンは、演じたガル・ガドットの存在によって、ますます新たな魅力を発揮しているようです。実際の兵役経験者でもある彼女と新作の関係について、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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スタントも自前でこなすガル・ガドットは実際に兵役を経験
「ヒーローは孤独だ」というが、ワンダーウーマンほどストイックなヒーローはいないだろう。ワンダーウーマンことダイアナ・プリンスは、新作『ワンダーウーマン 1984』(2020)でも考古学者としてスミソニアン博物館で働きながら、事件を未然に防ぐ活動をしている。
アマゾン族として幼い頃から厳しい戦闘訓練を受けた彼女は、スーパーパワーを覚醒させた、神の血を引く存在。1918年、戦争を終わらそうと「僕は今日を救う。君は世界を救え」と言い残して亡くなった恋人スティーヴへの思いを胸に、1984年の世で欲望を叶えるという怪しいビジネスを行う実業家マックスの陰謀に立ち向かう。
恋人を喪って以来、ずっと独りで粛々と世界を守り続けているワンダーウーマン。美しく、強く、天才的なのに、だ。そもそもそんな役を、説得力を持って演じることすら普通なら難しい。それができるのは、ガル・ガドットくらいだろう。そう、これは彼女抜きには語れない作品だ。
イスラエルのテルアビブ、ロッシュ・ハアイン地区出身のガル・ガドットは、エンジニアの父と教師の母、そして妹の、厳格なユダヤ教徒の家庭で育つ。家の中での遊びより、外を走り回ることを好む活発な子どもだったが、演じることや踊ること、アートへの興味も人一倍。しかし両親は、芸術分野での仕事には反対で、弁護士になることを勧めた。
そんなガル・ガドットが人前に立つことになったのは、母たちが軽い気持ちで応募した「ミス・イスラエル」のコンテストが発端だった。入賞こそ逃したものの、当時18歳だった彼女の元には、さまざまなブランドからキャンペーンモデルの依頼が殺到する。
しかし、そこはイスラエル。すべての国民に兵役が課せられている。高校卒業後はイスラエル国防軍に入隊。2年後に除隊し、IDCヘルズリヤ大学で法律と国際関係を学ぶが、諦めがつかずモデルやテレビドラマの仕事を続け、映画のオーディションに参加。『007 慰めの報酬』(2008)のオーディションなどに落ちながらも、『ワイルド・スピード』シリーズ4作目の『ワイルド・スピード MAX』(2009)でヴィン・ディーゼルを誘惑する敵側の美女に抜擢される。
当時彼女を抜擢したジャスティン・リン監督は、高い身体能力と武器についての知識を買ったのだそう。ガル本人は、このオーディションがだめなら本格的に弁護士を目指す方向にシフトしようと思っていたという。「兵役についたことが役に立った」とガル。その後のシリーズにも出演し続け、アクションのできる俳優であることを印象付ける。
その効果あって、DCコミックのスーパーヒーローが集結した『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)でワンダーウーマンに抜擢。役作りのために剣術、カンフー、キックボクシング、カポエイラなどのトレーニングを受けた。『ワンダーウーマン』(2017)では単独主演、『ジャスティス・リーグ』(2017)では再びヒーローの1人として演じ、アクションスターの地位を確固たるものとする。
そして、新作となる本作では、すべてがパワーアップしている。振り向きざまにハイキックし、ヘスティアの縄と呼ばれる武器を投げて敵と戦うシーン。その素晴らしいスタントも自身でこなしているのだそう。