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ワンダーウーマン女優の“刺激的な”人生 「人が命を落とさないヒーロー映画」はなぜ生まれたのか

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

命を奪おうとしないワンダーウーマン 映画が世界に及ぼす影響は?

 初の単独主演作となった『ワンダーウーマン』の批評が出た日の夜について、ガルはこう語っている。子どもを寝かしつけているベッドにPCを持ち込み、批評がアップされるのを待っていたが、読むやいなや、その高評価なレビューに興奮。すぐにパティ・ジェンキンス監督に報告の電話をしたそうだ。観客には、彼女の演じるダイアナ・プリンスの、激しく、強く、思いやりがあり、妥協を許さないところが受け、批評家にはCGを極力使わない質の高いアクションも評価された。

 新作『ワンダーウーマン 1984』で一番驚くポイントは、映画のルックがソフトであること。走る車の上でのアクションなど、固唾を飲むようなハードなシーンの連続にもかかわらず優しいのだ。それだけの戦闘にもかかわらず人が命を落とさない。というか、ワンダーウーマンが命を奪おうとしない。それでも違和感なくアクションを楽しめる。このアイデアは、ガル・ガドットなのか、パティ・ジェンキンスなのか、はたまた両人なのか?

 パティ・ジェンキンス監督は「ガルは、栄光や名声より、この映画に出ることで、世界に何か貢献したいと話していた」と語る。娘2人の母でもあるガル・ガドットが、前作が成功したことで発言権を持ったとすれば、まず改善したいポイントはそこだったのかもしれない。娘たちは母親がワンダーウーマンを演じているのを知っているという。いずれ、観るだろう娘たちが、そして世界中の女の子たちが映画を観て“受け取るもの”を考慮したいと考えるのは当然だ。

 映画俳優組合のイベントのQ&Aに出席し、両足を失った女性ファンから「勇気をもらった」などの声を直接聞いたり、撮影中、ワンダーウーマンの衣装のまま小児病院を訪問したりなど社会貢献的な活動も行っている。それでも、プライベートな自分が“ロールモデル”となることは考えていないのだそう。「母親として行ったことが、そう感じてもらえるのであればありがたいことですが」と。

 普段は、まだスターではなかった時にヨガのクラスで知り合った夫ヤロン・ヴァルサノと、娘2人と穏やかに暮らしているという。外出やパーティには興味がないのだそう。これから公開されるケネス・ブラナー監督の『ナイル殺人事件』(2021)で共演したアネット・ベニングが、ガルのアクションを伴わない演技をべた褒めする記事を目にし、バージョンアップを続けるガルの姿勢に惹かれた。その生き方、活躍の仕方は、かなり刺激的だ。

『ワンダーウーマン 1984』全国公開中 配給:ワーナー・ブラザース映画 (c) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC Comics

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。