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神秘的な発酵食品の世界 “醸せ師”が魅了されていることとは

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著者:小田島 勢子

ビールも麦を発芽させ、麦芽作りから【写真:小田島勢子】
ビールも麦を発芽させ、麦芽作りから【写真:小田島勢子】

冬のある日はお味噌づくり 夏は庭のブドウの変化を楽しむ

 スーパーマーケットなどの小売店で「麹」を買ってくれば、誰でも気軽に発酵食品を作ることができます。普段は我が家でも乾燥麹をパントリーに常備しています。家族が食べる1年分の味噌をまとめて作る時は、量が多いためこの乾燥麹を使いますが、日常的に少量の発酵食品を作る際には、麹起こしから始めて工程を楽しみます。

 菌への「愛しさ」が生まれたのはこの「麹起こし」の時でもあるほど、麹の発酵には思い入れがあります。ある時、発酵中の麹の様子を伺うため、発酵容器を持ち上げた時に感じた熱。麹たちが繁殖する時の発熱は人間の体温よりもはるかに高く、麹菌の生命力の強さを肌で感じました。

 また毎年の夏は庭になったたくさんのブドウを使って、レーズンやワイン、スパークリングワイン、ワインビネガーを作ります。(注:日本では1%以上のアルコールを、家庭で許可なく作ることは法律で禁止されています。アメリカは自宅でたしなむための醸造酒は合法です)

 レーズンは傷がつかぬようにツタから優しく収穫し、さっと水で流す程度に洗って家の天井から吊るすだけ。皮の表面に生息する酵母や菌たちがブドウを優しく守り、カビが生えることもなく、2か月もすればおいしいレーズンになります。食べる分だけ実をもいで、おやつやサラダのトッピングにします。

 ワインはブドウを収穫した後にさっと洗い、実と軸に分けて処理していきます。私は酸味があるワインの方が好きなので、乳酸菌がおいしくなるといわれる温度の低い状態で熟成をするのが好きです。売っているワインほどの味わいはありませんが、ワインと日本酒の間のような風味になります。

自家製ワインビネガー造り 発酵の神秘に魅了されていく日々

 自家製ワインを味わった後、そのワインでスパークリングワインを。さらに残った液体を常温に戻し、酢酸菌を加えて常温で1か月。ワインのアルコールがお酢に変わり、やがてワインビネガーとなります(注:お酢の醸造も日本では酒税法で禁止されています)。活躍する菌の割合が変わるだけで、庭のブドウがいろんな種類の食べ物や飲み物、調味料になることに、毎回感動してしまうのです。

 私にとって発酵の旅は、生命の神秘、目に見えぬ微生物のたくましさを感じるひと時です。こうやって毎度ワインやお酢を作る時、菌は目に見えないけれど、歴史とともに人々と共存し、ただただ生命を次の代に継ぐために生きていることをとても愛しく思います。

 そしてこの人間の世界も同じく、次の世代へ命を繋ぐために一生懸命生きている。このコロナ禍では、いつもより何倍も笑顔や助け合いを愛おしく感じています。

 今年も暮れてゆきます。来年がより良い年となりますよう、ロサンゼルスの片田舎の小さなファームより心から祈っています。

(小田島 勢子)