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英国王室はなぜドラマチックなのか? 愛憎劇からスキャンダルまで王室映画5選
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2020年も話題満載だった英国王室ですが、年始はさすがにお休みモード。ロイヤルファンにとって少々暇な時期は、映画に描かれた王室を堪能してみませんか? 女王&王を主人公に据えた傑作5作品を観れば、英国王室がグッと身近な存在になる一方、おどろおどろしい過去がむしろリアルに感じられるかも。映画ジャーナリストの関口裕子さんの解説でお届けします!
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英国王室を描くどの作品にも言えるのは、君主は絶対の権力者であると同時に、その国と民のための社会的責任と義務を果たす存在であるということ。だから苦悩する。帝王学の1つとして、「ノブレス・オブリージュ(高貴な者には義務が伴う)」を学んでいることを思いながら観るとより興味深いだろう。
若きエリザベス1世をめぐるパワーゲーム
<『エリザベス』>
16世紀中盤に王位を継承した若きエリザベス1世が、宗教と領土の問題などを乗り越えて、責務を負う覚悟を決めるまでを描く『エリザベス』(1998)。こう書くと、清く正しいスポコンもののようだがさにあらず。自分が王妃になるためヘンリー8世に前王妃との結婚を無効にさせた母アン・ブーリンと、離婚と結婚のためカトリック教会からイングランド国教会を分離させた父ヘンリー8世。さらにはエリザベスが女王である事実といった、彼女の責任でないことにも足を引っ張られるというドロドロの愛憎劇とパワーゲームが描かれている。
エリザベス(ケイト・ブランシェット)は39歳の時、外交上の問題などから19歳のフランスの王子アンジュー公(ヴァンサン・カッセル)との結婚を進められるも破談。生涯の恋人であった、幼なじみのロバート・ダドリー(ジョセフ・ファインズ)との結婚は認められず、隣国スコットランドの王妃メアリ・オブ・ギーズ(ファニー・アルダン)からは悪しざまに扱われ、さらにはカトリック教会の命を受けたジョン・バラード(ダニエル・クレイグ)に狙われる半生を送る。
そんなエリザベスの命を陰で守ったのは、諜報機関を作って女王直属の秘密警察業務を担ったフランシス・ウォルシンガム(ジェフリー・ラッシュ)。彼の働きによってエリザベスは、20回以上もの暗殺計画を生き延びたと言われている。
見どころの1つは、このオールスターキャスト。他にジョン・ギールグッドやリチャード・アッテンボローも出演している。また、アレキサンドラ・バーンが手がけた美しい衣装も素晴らしい。インド出身のシェカール・カプール監督は、時代考証よりも物語性を重視。戴冠式、おもてなしのパーティ、閨のカーテンの中など、自由な発想が許された衣装にもぜひ注目を。10年後に同じカプール監督、ブランシェット主演で作られた続編『エリザベス:ゴールデン・エイジ』では、米アカデミー賞衣装賞を受賞している。
エリザベス1世のドロドロをもっと細かく観る!
<『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』>
『エリザベス』の後、ジョージー・ルーク監督の『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018)を観ると、エリザベス1世を取り巻く状況がさらに深く理解できる。本作は2人の女王、メアリ・オブ・ギーズの娘でスコットランド女王メアリー・スチュアート(シアーシャ・ローナン)とエリザベス(マーゴット・ロビー)の物語だ。
スコットランド王とイングランド王の正統な血を引き、0歳でスコットランド王位を継承したメアリー・スチュアート。ヘンリー8世の寵愛を失った母アン・ブーリンが処刑されたことで、庶子の身分であったエリザベス。両国の女王となることを画策し、敵対する2人であったが、女であり、国を治める者でなければ分からない苦悩を共有する者同士でもあった。
メアリーは幼少時、イングランド国教会派の影響がすさまじいスコットランドを離れ、フランスへ。15歳でフランス王太子と結婚するも、18歳で未亡人となり、異母兄が統治する故郷スコットランドに戻る。兄に代わり、女王として国を治めるが、カトリックの国々との結託を恐れるイングランドとのえげつない駆け引きの只中と投げ込まれる。
衣装を手がけたのは、『エリザベス』のアレキサンドラ・バーン。顔の周りを立ち上がるように覆うレースをフリル状にした襞襟など、まさしく時代考証を踏まえたものだ。ドレスの色合いは全体的に抑えられているが、要所要所で使われる血のような赤に目を引き付けられる。ちなみに、現在は犬や猫が養生する時に使われるエリザベスカラーは、エリザベス1世の肖像画から名付けられた。
メイクアップも『エリザベス』で米アカデミー賞メイクアップ賞を受賞したジェニー・シャーコア。本作での仕事も素晴らしく、フランスから帰ったばかりのメアリーが、スコットランドになじんでいく姿を髪型で表している。また、本作と『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(2009)でも米アカデミー賞にノミネートされた。
エリザベスが69歳で亡くなるまで国を統治する女王であったのに対し、メアリーは24歳での退位後から処刑されるまでの20年間、君主ではなかった。一方、未婚だったエリザベスに対してメアリーの血は連綿と続き、初代グレートブリテン王国の女王となったアン・スチュアートまで、すべてメアリーの直系であった。