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英国王室はなぜドラマチックなのか? 愛憎劇からスキャンダルまで王室映画5選

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

権力を持つ3人の女性による悲喜こもごも

<『女王陛下のお気に入り』>

 そんなスチュアート朝最後の女王アン・スチュアートを描くのが、オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ主演、ヨルゴス・ランティモス監督の『女王陛下のお気に入り』(2018)。ここでも衣装は時代考証に重きを置かず、担当したサンディ・パウエルの白と濃紺を多用したドレスは、着てみたいと思うほど現代的デザインだ。

 18世紀初頭、女王に即位したアン(オリヴィア・コールマン)は、亡くなった子どもと同じ数の17匹のウサギを自身の居室で飼っている。ブランデー好きがたたって肥満し、痛風に苦しんでいる上、フランス王国とも戦争中だ。だが、幼い頃からの親友にして愛人のレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)の存在によって破綻せずにいる。

 そこに侍女としてやってくる、サラの従妹で没落貴族の娘アビゲイル(エマ・ストーン)。アビゲイルはアンに近付き、心身ともに尽くすことによって女官に昇進する。しかも、サミュエル・マシャム大佐との結婚と年2000ポンドの年金を認めさせ、貴族へと返り咲くのだ。したたかなアビゲイルを演じるエマ・ストーンが強烈。『ラ・ラ・ランド』(2016)とはまた異なる魅力を発している。

 糞尿まみれる泥の中に落とされるアビゲイル。話しかけるアビゲイルに平気で銃を放つサラ。権力を持つ3人の女性にまとわりつく男性たち。皮肉な展開と、装飾過多な演出を持ち味とするヨルゴス・ランティモス監督の『ロブスター』(2015)に反応する方は必見。また、アン女王を演じたオリヴィア・コールマンは、米アカデミー主演女優賞を受賞している。

 アン王女の居室の撮影が行われたのは、1611年にロバート・セシルによって建設されたハットフィールド・ハウス。エリザベス1世の寵臣だったロバートは、『エリザベス』でリチャード・アッテンボローが演じたウィリアム・セシルの息子だ。元々広い居室を必要以上に広く見えるように撮影しているそうだが、その理由は、こんな宮殿で暮らす人は何を考えていたのかを、観客に想像してほしかったからだそう。

国王という“大義”とそれに対峙する“個人”

<『英国王のスピーチ』>

 アン女王の崩御後、王朝はハノーヴァー朝に。さらに1901年に即位したエドワード7世からはサクス=コバーグ=ゴータ朝となる。だが次のジョージ5世時代、第一次世界大戦の敵国領の名前であることを憂慮し、1917年に改名。ウィンザー朝として現在に至っている。

 ジョージ6世は、ジョージ5世からさらに2代後の国王。『英国王のスピーチ』(2010)では、子どもの頃から吃音に悩んでいたジョージ6世(コリン・ファース)が、言語治療士ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)の指導で吃音を克服し、第二次世界大戦参入を避けられない英国王としての義務を果たそうとする様が描かれている。米アカデミー賞作品賞など4部門を受賞した傑作だ。

 離婚歴のあるウォリス・シンプソン夫人との結婚を望んで退位した兄のエドワード8世(ウィンザー公爵)に代わって、1936年に急遽ジョージ6世として即位することになったヨーク公アルバート王子。エドワード8世の顛末は純愛を貫いた美談として、映画『ウォリスとエドワード英国王冠をかけた恋』(2011)にもなっているが、当時はスキャンダルとなり、王室の存続まで危ぶまれる事態だった。

『英国王のスピーチ』で脚本を手がけたのは、幼い頃吃音症だったというデイヴィッド・サイドラー。治療時は「英国王も頑張った」が励ましの言葉だったという。脚本執筆のベースになったのは、ライオネル・ローグの治療記録。その内容を使う条件は、ジョージ6世の妻でエリザベス2世女王の母であるエリザベス王妃(クイーン・マザー)から許可を得ること。王妃からの答えは「私が死んだ後なら」だった。サイドラーは、25年間待って脚本執筆を再開し、「治療記録から見たジョージ6世は、伝え聞く人物像よりシャープなユーモアの持ち主だと思った」と後に語っている。

 ローグは、ストレスを解放させることも治療法と、国王であるジョージ6世と対等に接する。最初は「無礼だ!」と反発するジョージ6世も、徐々に友情のような気持ちを芽生えさせる。王室の変化を感じさせるエピソードだが、これはローグがオーストラリア人だったからという説もある。