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英国王室はなぜドラマチックなのか? 愛憎劇からスキャンダルまで王室映画5選

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

エリザベス女王も絶賛したヘレン・ミレンの名演技

<『クィーン』>

 吃音症、第二次世界大戦、大英帝国の崩壊など、重い荷を背負った君主であったジョージ6世。『英国王のスピーチ』でジョージ6世になり切ったコリン・ファースは、「1日の撮影が終わると偏頭痛がするくらい大変な役だった」と語っている。そんなジョージ6世の長女、エリザベス2世(エリザベス女王)は現在の英国女王だ。

 そんなエリザベス女王をヘレン・ミレンが演じた『クィーン』(2006)は、1997年にダイアナ妃が交通事故で亡くなった際の英国王室を描いている。公の場に出ず、マスコミから冷たいと糾弾された女王と、マスコミ操作に長けた当時の首相、トニー・ブレア氏との駆け引き。そして世論にあり方を問われ、揺れる英国王室。スティーヴン・フリアーズ監督が手がけた完全なるフィクションだが、タブーはほぼなくなったとはいえ、このモチーフで王室を描いたことはセンセーショナルだ。

 ただ本作は、真相をスキャンダラスに暴く作品ではない。困難な立場にある女王と、18年ぶりに労働党から首相になったブレア氏の駆け引きを描くことで、世代による王室への温度差、王室とは何かの問いをあぶり出す。しかもそんな社会派作品でありながら、声高にメッセージは語らない。そこがフリアーズのフリアーズたる演出だ。

 現代に至っても女王は孤独だ。従来のしきたりを守る以上のことは考えない母のエリザベス王妃(クイーン・マザー)、「2日もすれば収まるさ」という夫のフィリップ殿下(エディンバラ公爵)。結局、ブレア氏の助言に耳を貸す女王は、「何でも相談してください」との言葉に「僭越です。それは私の役目です」と返す。英国王室とは何か? を静かに問いかけると同時に、女王という責任とプライドについて我々に伝える場面だろう。

 女王を演じたヘレン・ミレンの演技は、ゴシップを凌駕する名作へと本作を導いた。エリザベス女王は、そんなヘレン・ミレンの米アカデミー賞主演女優賞受賞に対し、「喜ばしく思う」とコメントを出している。

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。