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有村架純が持つ登場人物の感情を読み取る力 全編を通じ自身であり主人公である理由とは

著者:関口 裕子

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『花束みたいな恋をした』2021年1月29日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開 (c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会
『花束みたいな恋をした』2021年1月29日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開 (c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

 2月に28歳を迎える有村架純さん。数々のドラマや映画で主演を務め、受賞歴も持つ若手の実力派です。その魅力は何と言っても、感情の細やかな表現。リアルや等身大といった表現がよく似合うその演技は、鑑賞者に深い余韻を残します。映画最新作『花束みたいな恋をした』でもやはり、全編を通じて自身でありながら主人公という有村さんならではの演技を披露しているようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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“やりたくないことはしない”と言い切る絹の人生

 涙にはいろいろな種類がある。切ないのは泣きたくなくて必死に止めようとしているのに仕方なく流れてしまう涙。『花束みたいな恋をした』の主人公、麦(菅田将暉)と絹(有村架純)の涙もそうだ。2人の涙はさまざまな感情を飲み込んで大粒にきらめいていた。

 本作は、大ヒットドラマ「東京ラブストーリー」(1991・フジテレビ系)や松たか子主演のラブサスペンス「カルテット」(2017・TBS系)、広瀬すず主演の「anone」(2018・日本テレビ系)を手がけた脚本家・坂元裕二氏によるラブストーリーだ。「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(2016・フジテレビ系)と同様、“恋は生きるためのものではない”という主張が貫かれている。

 スタート地点の麦は、イラストレーターになる夢を持っている。その分、進むべき未来ははっきりしていたが大学在学中に就職が決まらなかったため、就職後も何を目指すべきか考え続けていた。“麦高絹低”で始まった2人の成長は、イラストでなかなか食べていけない麦が就職活動を始めることを境に逆転していく。

 営業の仕事についた麦は、絹と約束していた舞台鑑賞をドタキャンする。絹は言う。「好きで一緒にいるのに何でお金ばっかりになるんだろう」。麦はこう答えて口ごもる。「ずっと一緒にいたいからじゃん。そのためにやりたくないことも……」。続く絹のセリフが胸に突き刺さる。「私はやりたくないことをしたくない。ちゃんと楽しくいきたいよ」。

 この言葉はコロナ禍の今、生きることに試行錯誤している私たちに問いかける内容でもある。夢を貫く覚悟はあるか? それともさっさと諦めて、生きることを安定させることに邁進するか? いや、邁進したからといって、そうできるわけでもないのだが……。

 絹と麦の恋を見守りながら、今をいかに生きるかを考える作品。麦の方向転換も決して妥協とはいえない。でも一度すれ違ってしまうと、人の心を戻すのは難しい。ただ、もしどこかで進む道を違ってしまったと気付いたのなら、人生はいつでもやり直せる。その猶予がこの作品には残されている。