Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

米在住“醸せ師”が語る菌の話 発酵食品で摂る生きた菌・死んだ菌はどちらにも重要な役割が

公開日:  /  更新日:

著者:小田島 勢子

食事で善玉菌を多く摂ってもすべてが腸内に生息するわけではない

発酵食品の1つ、ぬか漬けをワークショップで伝授。キュウリとニンジンで【写真:小田島勢子】
発酵食品の1つ、ぬか漬けをワークショップで伝授。キュウリとニンジンで【写真:小田島勢子】

「菌が生きたまま腸まで届くにはどうしたらいいですか?」

 私が開催している発酵食品のワークショップでよくある質問です。

 手作りの発酵食品に多くの善玉菌が生息していることは、皆さんご存じだと思います。せっかく発酵食品を自分たちで手作りするからには、生きている菌をそのまま身体に摂り込みたい。その気持ち、とてもよく分かります。

 結論ですが、菌を生きたまま摂ることも死滅した菌を摂ることも、どちらも腸内にとって別々の効果があると言われています。また、生きた菌を摂り入れたとしても、その菌そのものが私たちの腸内で住み続けるわけではありません。

 私たちの腸に住み着く常在菌のバランスは、一人ひとり種類も数も割合も違いますが、3歳頃から個人の持つ菌の種類はほとんど変わらないと言われています。例えば、一時的に抗生物質を飲んで変化が生じても、同じ環境で同じような生活をしていると、徐々に以前の状態に戻るのです。

 発酵食品で善玉菌が多い食事を摂った時も、その菌がすべて腸内に生息するわけではありません。人間それぞれの環境や生活に基づいてできた常在菌以外のものは、やがて体外に排出されます。

生きた菌を取り込むのは難しい! その効果は

 では、生きた菌を摂ることはどのような効果が期待できるのでしょうか。

 前述した通り、生きた菌と死滅した菌の体内での活躍には違いがあります。生きたまま菌を摂り込む(発酵食品に火を通さず生のまま食べる)ことで、腸内に届く菌はそもそもとても少ないと言われます。

 なぜなら多くの場合、胃酸などの消化液やその他の消化器官を通過する時に死滅してしまうから。ここを通過した幸運な菌は(植物性由来の乳酸菌や納豆菌など、一部の菌は生きたまま腸まで到達する力があると考えられています)、腸内にたどり着いた時、腸内の常在菌を刺激する役割になります。

 菌の目線で考えるなら、新しい生徒が転校してきた感覚とでもいうのでしょうか。見知らぬ菌が外部から侵入することで、常在菌は刺激を受けて活発になります。活発になると悪い菌に抵抗する力も高まり、さらには善玉菌が生産するビタミン類も多くなるため、人間の代謝や免疫力の向上につながるのです。

 では、死滅してしまった菌の役目は? それは、常在菌のエサになること。栄養源として、腸内を整える力になっていると言われています。また、善玉菌が退治した悪玉菌を排出する役割もあるそうです。

 つまり私たちと共存している内なる常在を育むために、発酵食品の摂取は大切なのです。「おみそ汁を温めた時に菌が死滅すると、その効果はなくなるのか」など加熱を気にする声もありますが、熱いおみそ汁だって十分に私たちの身体作りをしてくれています。

 ごはんにおみそ汁、そして少しばかりの古漬けしたお漬け物。これがどれだけのごちそうであることか。

「腸活」とは発酵食品を生活に取り入れ、私たちの身体の中にいる常在菌たちとともに健やかであることだと私は感じています。改めて2021年、皆さんの腸内も心も健康でありますように。

(小田島 勢子)