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長澤まさみの偉大なる才能、その価値を認めていないのは本人? ヒール役で表現した「清と濁」
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12歳で「東宝シンデレラ」オーディションのグランプリに輝き、『クロスファイア』(2000)で映画デビューを果たした長澤まさみさん。33歳の現在は多数の映画やドラマに出演し、幅広い役柄を演じ分ける“カメレオン女優”として高い評価を受けています。最新作公開作の『すばらしき世界』でも、やり手のテレビプロデューサーを熱演。西川美和監督の世界を見事に表現しているようです。他の監督からも数々の賛辞を受けている長澤さんの魅力について、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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偉大なる才能を持ちながらその価値を自分では認めない人
長澤まさみといえば、行定勲監督『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)のアキだ。ボーイフレンドのサク(森山未來)が空港でアキを抱きしめながら「誰か助けてください!」と叫ぶシーンは印象的だった。成績優秀、スポーツ万能、かわいくて感じもいい女子高生アキは、当時の長澤のイメージにぴったり。
しかしアキが白血病にかかり、闘病するくだりになると、医療従事者へのリサーチを重ねていた長澤は髪を剃った。同作公開時の取材でもまだウィッグだったので、「髪を切るのはつらかったでしょう?」と訊ねると、「私にはそのくらいしかできることなかったので」とあっけらかんと答えた。でもそれは決して“そのくらいしかできることなかった”のではない。16歳であった長澤が、その時しっかりと選んだ役へのアプローチなのだと感じていた。
それは古厩智之監督からこんなことを聞いていたからだ。『セカチュー』の前年、長澤は古厩監督の『ロボコン』(2003)で初主演を果たした。落ちこぼれ高専生らがロボットコンテストに挑む青春映画で、長澤の役はロボットの操縦担当・里美。最初は著しく操縦が下手な里美だが勝ち上がるにつれ腕を上げていく。古厩監督は、共演の小栗旬らがその下手さを事実だと思っていたと言う。『キングダム』(2019)でも分かるように、長澤は運動神経が抜群にいい。上手に操るところを共演者に見せなかったのだろう。演技への意識的なアプローチに感心した。
演じることに自分なりの方法論を持つ長澤だが、決してそれを表に出そうとはしない。だから『タッチ』(2005)を監督した犬童一心監督は透明感という意味で「無個性な個性」と、『MOTHER マザー』(2020)の大森立嗣監督も演技を激賞しながら「自己肯定感が少ない」という言葉で長澤を語った。
昨年の長澤は『MOTHER マザー』に『コンフィデンスマンJP -プリンセス編-』と異なる世界観の主演作が続いた。今後も『シン・ウルトラマン』(夏公開予定)に『マスカレード・ナイト』(9月公開予定)、『コンフィデンスマンJP』シリーズ第3弾(2022年公開予定)、ドラマ「ドラゴン桜2」(TBS系)と相変わらず役の幅は広い。
世の中には偉大なる才能を持ちながらその価値を自分では認めない人と、凡庸な才能を誇大に言い立てる人がいる。長澤は前者なのだと思う。たぶん自身を大きく見せることに興味がないのだろう。