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松浦亜弥は太陽だった 懐かしのハロプロオタクを描く映画『あの頃。』

著者:関口 裕子

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『あの頃。』2021年2月19日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー(c)2020『あの頃。』製作委員会
『あの頃。』2021年2月19日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー(c)2020『あの頃。』製作委員会

 今やすっかり一般的になった「推し」という言葉。皆さんにも「推せる」アイドルやアニメ&漫画キャラがいるかもしれません。今泉力哉監督の『あの頃。』はこの言葉が盛んに使われ出した15年ほど前、ハロー!プロジェクト(ハロプロ)のオタクになった青年・劔が主人公。松浦亜弥推しのファンを熱演したのは松坂桃李さんです。アイドルを軸にした青春群像劇であり、また「アイドルとは何か」を考えさせるこの作品を、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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松浦亜弥の熱狂的なファンを描く青春群像劇

 当時、松浦亜弥は太陽だった。ウエストが見えるセパレートの衣装を着て、少し上目遣いに歌う様子などまさに! 小さな顔に上がった目尻、ツンと上を向いた鼻、透き通った瞳、長い手足。アイドルの定義に容姿に関するものはないが、もしサンプルを出すのなら松浦亜弥をおいて他にないと思うほど、2000年代前半の歌謡界は彼女に席巻されていた。

 今思えば「桃色片想い」(2002)、「Yeah!めっちゃホリディ」(2002)、「ね~え?」(2003)を歌っていた全盛期の松浦亜弥は16、17歳。まだほんの子どもだった。でもプロ意識とでもいうのだろうか? 彼女はそう感じさせなかった。

 露出多めの衣装も、ローアングルからのショットもセクシーとは感じられなかった。見ているだけで元気になる存在。これから飛び出ていこうと胎動するエネルギーを閉じ込めたもの、または観る者を魅了しようと動く別な生命のように感じた。

 映画『あの頃。』はそんなアイドル・松浦亜弥の熱狂的なファンとなった人生停滞中の若者たちを、2004年の大阪と2008年の東京を舞台に描いた青春群像劇だ。

 熱中できるものがなく、バンドにも大学生活にも行き詰まっている劔(松坂桃李)に、ある日悪友が「元気を出せ」と松浦亜弥のDVD「桃色片想い」を渡す。画面に映し出されたのは歌い踊るキュートな松浦亜弥。あっという間に魅了された劔は、ハロー!プロジェクト(ハロプロ)のファンになり、6人の同好の士と出会い、遅れてきた青春を謳歌していく。

 原作は劔樹人の自伝的コミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」(イースト・プレス刊)。劔樹人は漫画家でバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」などのベーシスト。「神聖かまってちゃん」などのマネジメントも担当し、『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴りやまないっ』(2011)には俳優としても出演した。脚色は『南瓜とマヨネーズ』(2017)の冨永昌敬、監督は『愛がなんだ』(2019)の今泉力哉が務めている。

 これは、松浦亜弥のファンになった劔が大きく成長していく物語ではない。松浦亜弥が劔にもたらした一番大きな“プラス要素”は、ハロプロオタクという同好の士。大学に行き、煮え切らない恋をし、仲間たちとグダグダと青春時代を過ごす。生産性を求められると何とも言えないが、心安らかに自分を見つめる時間を彼は手にし、振り返れる青春時代を得ることができた。そういう物語だ。