カルチャー
女性としてパリコレに出演した男性 ユニセックスモデルが考える「美しさ」とは
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幼い頃から知らず知らずのうちにすり込まれる「男らしさ」と「女らしさ」。近年はこうした社会的・文化的に作られる性別(ジェンダー)に関する議論が進み、性差を超える「ジェンダーレス」というキーワードも注目を集めるようになりました。ファッションの世界でも「ジェンダーレスモデル」は増えており、映画『MISS ミス・フランスになりたい!』に主演したアレクサンドル・ヴェテールもその1人です。男性でありながら女性としてランウェイに立つ彼にとって、「美しさ」の定義とは? 新たな時代の美意識を掴むヒントになってくれそうな本作を、映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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ゴルチエのショーに出演する夢を叶えた1人の青年
2020年に突然引退を発表し、ファッション界を騒然とさせたデザイナーのジャン=ポール・ゴルチエ。円錐形ブラやボンテージ、メンズスカートなど既存の概念に縛られないゴルチエのデザインは、世界的歌手のマドンナやロックバンドのBOOWY、スペインを代表する映画監督のペドロ・アルモドバルなど世界中に支持者を持つ。
そんなゴルチエのショーに出ることを夢見る青年がいた。名前はアレクサンドル・ヴェテール。フランス南部の高校を卒業後、パリで視覚芸術を学んだヴェテールは、2014年からモデルとして、俳優として少しずつ活動を開始。そして2016年、ついにパリ・オートクチュール・ウィークでゴルチエのランウェイを歩く夢を実現させた。
ただし彼がモデルを務めたのはウィメンズのショー。ヴェテールは「ユニセックスモデル」だったからだ。
なぜそんなにゴルチエにこだわったのか? ヴェテールは「ヴォーグ」のインタビューにこう答えている。「ジャン=ポール・ゴルチエのために歩くことは私の夢でした。特にコルセットとハイヒールをつけて歩くのが。それは彼がオリジナリティを重視するクリエイターで、アイデンティティに対して甘美かつ人間的なアプローチを持っていたからです」と。
ヴェテール少年にとって“アイデンティティ”は重要なテーマだった。少女のおもちゃで姉と遊ぶ楽しさ、女性のファッションへの興味など自分の中の少女性を自覚していたからだ。
そんなヴェテールに、ゴルチエのランウェイに立つ夢を叶えたからこその出会いがあった。ルーべン・アウヴェス監督からのオファーだ。「それが私たちの冒険の始まりでした」と、『MISS ミス・フランスになりたい!』で初主演を飾ったヴェテールは言う。