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カルチャー

女性としてパリコレに出演した男性 ユニセックスモデルが考える「美しさ」とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

美しさとは「体験し、アイデンティティを深めることで得られるもの」

『MISS ミス・フランスになりたい!』は、9歳の時に授業で発表した「ミス・フランスになる」という夢をクラスメイトに笑われ、同時期に両親を事故で失い、自信と自分を見失ってしまった青年の再生を描く映画だ。

 ヴェテールが演じるのは、ボクシングチャンピオンになった幼なじみに触発され、男性であることを隠してミス・フランス・コンテストの夢に挑むアレックス。予選を勝ち抜いたアレックスは、候補者の女性たちと友情を育めず落ち込んだり、司会者にセクハラされたり、思い上がって下宿先の家族のような家主やドラァグクイーン、移民たちの存在を否定したり、SNSの数字に一喜一憂したりする。そこでは移民やLGBTQ、女性蔑視、コミュニケーション、ミスコンの意義などさまざまな問題がアレックスの視点で描かれる。

(c)2020 ZAZI FILMS - CHAPKA FILMS - FRANCE 2 CINEMA - MARVELOUS PRODUCTIONS
(c)2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS

 ヴェテールのアンドロギュヌス(両性具有)的容姿は、本作のテーマをより深いものにした。ルーべン・アウヴェス監督は、当初考えていたトランスジェンダー(性自認と身体的性が不一致)の話から、自分の中にある女性性、男性性を探す物語へと変更した。完成した脚本を読んだヴェテールは、「アイデンティティというテーマに、新たな視点で問題を提起することができると思いました」と語っている。

 アレックスを演じるヴェテールは、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)などに主演したヒラリー・スワンクにもどことなく似てとても美しい。ミスコンで競う物語なので、そこに説得力がなければ映画は成立しないが、ヴェテールの美しさはさまざまな壁を越えて、軽々と観客を物語の中に没入させた。

 しかし彼は自分を美しいと思ったことはないと言う。美しさとは、「体験し、アイデンティティを深めることで得られるもの」。だから他人に気に入られなくても揺らがないし、「どうでもいいこと」なのだそう。

「確かに生まれ持った顔やルックスはありますが、それを使っているのは“自分”。オリジナリティがなければ、誰の興味も惹かないでしょう。私が好ましく思うのはいわゆる男性的な美ではありませんが、自分のものにしたことでそれは私の“力”になりました」

 ヴェテールは、小さい頃に認識した自分の中の女性性との向き合い方、美しさの生み出し方を、この主演映画を通して提示してみせた。それは「自分の欲望に耳を傾け、その夢を叶えることを決意して、既成の秩序に挑戦する」ということ。実行するのは難しいが、そうやって生きてきたアレクサンドル・ヴェテールに映画を通して会うのはなかなかに爽快だ。

 
『MISS ミス・フランスになりたい!』2021年2月26日(金)シネスイッチ銀座ほか全国公開 (C)2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。