カルチャー
女性だからとマイナスに感じたことはない 映画美術監督・部谷京子の「わたし流」
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映画業界に関わる女性たちにスポットを当て、これまでの人生やこの仕事を選んだ理由など、「わたし流」の仕事と生き方を掘り下げるこの不定期連載。今回は日本映画美術界の超大御所・部谷京子さんの後編をお届けします。樹木希林さん、吉永小百合さんらが登場する制作現場の貴重なエピソードも必読! 聞き手は映画ジャーナリストの関口裕子さんです。
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参加した最新作2本にもさまざまなアイデアが
――現時点の最新作は、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)でも組んだ藤井道人監督の『ヤクザと家族 The Family』(2021)です。これから配信されるネットフリックス版「新聞記者」も手がけられたそうですね。
『ヤクザと家族』のモチーフの1つは、煙突から立ち上る煙です。ロケ地を静岡県にしたのもそれを撮るため。工場の煙は、藤井監督の初期の作品から心象風景のように描かれています。そこは変わっていないんですが、煙と煙の間に出てくる人間ドラマを観ると「本当に成長されたな」と。劇場も含めて3回観ましたが、本当にあっという間に終わった気がしました。
――『ヤクザと家族』で印象深かったことは?
私としては、ヤクザな父を亡くした少年の賢治、ヤクザになった賢治、そして刑期を終えて出所してきた暴対法後の賢治を演じた綾野剛さんの凄みですね(笑)。初日、金髪で上下白の衣装でバイクに乗って入ってきた時「ああ、この作品はいけるな」と思いました。その瞬間から最後まで疾走し続ける綾野剛が見られただけで、この映画に参加して本当に良かった! 静岡でロケをしている時に綾野さんから、背中に「暴動」と書かれたTシャツが差し入れられ、みんな背中に「暴動」を背負って仕事しましたよ(笑)。
――1999年、2005年、2019年の3つの時代を美術的にはどう描こうと思われましたか?
柴咲の家、柴咲組事務所、オモニ食堂の3つを、3つの時代でどう色分けして描くかということに腐心しました。オモニ食堂に関しては、今回、唯一色が使えるところでしたのでかなりカラフルにしました。3時代分きっちり貼り替えた壁の韓国語メニューも、撮影の今村圭佑さんがうまく切り取ってくださったので嫌味なく見えたかなと思っています。フロアは焼き肉屋さんなので色を塗ってコンクリートっぽく仕上げ、あとは時代に沿って貼ったりはがしたり汚していきました。
――時間の経過がある中で、一番手を入れられた芝居場は?
オモニ食堂の他では組事務所ですね。後はアクションシーンのあるバー。何もないところだったので、白い布や鏡、花で飾り付けました。舘ひろしさん扮する柴咲の家も狭いんです。盃を交わす場面も短冊があまりたくさん下げられず、シンメトリーにはできなかった。でも地方の一ヤクザの家ということでいいのかなと。
――藤井監督はどんな注文をされるんですか?
美術に関してはほとんど言いませんが、スタジオにセットを組んだネットフリックス版「新聞記者」ではいろいろおっしゃっていました。一番は動線。俳優さんがどう動けるのか、どう動くのかということ。内閣情報調査室(内調)のデザインで、最初、広さを出すために高低をつけた立体的なプランを見せたんですが、監督はそれより見せたいものがあるとどんどん変わっていって現在のものに落ち着きました。
美術的に狙いすぎるよりも、まずは俳優がどう動けるかということと、自分が描きたい画に近付けるための努力を惜しまないという感じですかね。私が考えすぎた点はきっぱりと排除されましたが、その辺がはっきりしているし、任せるところは任せてくれるのでとてもやりやすいです。
狭いセットを広く見せるために私がしたのは、部屋をいくつかに区切って、その間仕切りを大きなガラスにするということ。その奥にもさらに奥にも部屋がある。実際、広さを感じられるものになっていればいいんですが。
――不思議なおばあさんとの出会いで立ち直っていく少女を描いた『宇宙でいちばんあかるい屋根』も藤井監督作品ですが、まったく毛色が違いますね。
監督の中では『ヤクザと家族』と同じく「家族」がテーマの作品らしいです。『ヤクザと家族』の序章という位置付けだと。擬似家族というか、人と人とのつながりが、家族に近いような関係性になることも含めて広義の「家族」を描いているんだと言っていました。