Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

カルチャー

お母さんだから…と仕事が来ない時期も 映画監督・岨手由貴子の「わたし流」

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

商業映画を作る際には明確なテーマを形にする責任がある

――おっしゃるように映画は1人では撮れません。岨手監督は自主映画で映画作りを学び、商業映画監督としてプロの方たちと仕事されるようになっていくわけですが、その過程では思い通りにならないことも、製作費も大きくなって実現させるのが困難になる状況もあったと思います。

 自主映画には単純にお金がないとか、やれることが限られているみたいなジレンマはありますが、とてもプライベートなテーマを描ける良さがあると思います。一方の商業映画では自分の半径5メートルに起きるドラマだけで企画が通りません。商業映画を作る際には、明確なテーマを形にする責任があると感じています。

 でも商業映画なら予算的にもやりたい表現をすべて実現できるかというとそういうわけでもない。『あのこは貴族』は結構豪華に見えますが、皆さんのアイデアで切り抜けた部分もかなりあります。

 例えば最後の音楽祭のシーンは、“子どものための音楽祭”に設定を変えています。そうすることで大きなホールを押さえたり、たくさんエキストラを集める必要はなくなりました。その上、カジュアルな音楽祭として描くことで、華子と逸子の状況を可視化することもできました。そういう障壁に直面した時、どう打ち返すかの連続で作品が出来上がっていく感じはすごくクリエイティブだと思っていますし、好きです。

映画業界の女性はどこかでいったん休まないと仕事が続けられない

――現在は地方在住でお子さんがいらっしゃる岨手監督は、子育てなどもあり、コンスタントに撮るのが難しい部分もあるのかなと思いますがいかがでしょうか?

「地方に住んでいる」ことと、「子育てをする」ことは、切り離して考える必要があると思います。

「地方に住んでいること」に関しては、例えば日々の打ち合わせがオンラインになるとか、直接確認したいことは少し手間がかかるとか、そういった困難はありますが、正直そこまでネックだと感じたことはありません。新幹線の交通費や撮影時に単身赴任して東京住まいするとかいった問題はあります。ただプラスもすごくあって、東京を客観的に見られることもそうですし、地方に移住して初めて目にしたものや、人間関係などは得がたいものだと思っています。

「子育てをすること」に関しては、正直ものすごく高いハードルになっていると思います。『ミセス・ノイズィ』の天野千尋監督とはママ友なんですが、天野さんとは子どもがいることが“ばれた”ら仕事を振ってもらいにくくなったと話したことがあります。

 子どもが小さいうちは「子育てが大変だろうから」「あの人お母さんだから」となかなか仕事がこない。お互いそういう時期を体験しました。でも、仕事を得ても女性の場合はどうしても両親やベビーシッターさんの協力が必要になってくるんです。撮影が始まると帰宅時間は深夜1、2時になってしまいますし。

 今回、私より若い女性スタッフから、「監督、私このまま仕事を続けながら子どもを産んだりできますかね?」と相談されたんですが、残念ながら映画界がこのスケジュール感で良しとしている以上、女性はどこかでいったん休まないと仕事は続けられないと思いました。

<後編では最新作『あのこは貴族』で描いたテーマなどについて伺います>

『あのこは貴族』2021年2月26日(金)全国公開 (c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会 配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ

◇岨手由貴子(そで・ゆきこ) 監督・脚本
1983年生まれ。長野県出身。大学在学中、篠原哲雄監督指導の元で製作した短編『コスプレイヤー』が「第8回水戸短編映像祭」「ぴあフィルムフェスティバル2005」に入選。2008年、初の長編『マイム マイム』が「ぴあフィルムフェスティバル2008」で準グランプリ、エンタテインメント賞を受賞。2009年には「文化庁若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)」に選出され、山中崇と綾野剛らを迎えた初の35ミリフィルム作品『アンダーウェア・アフェア』を製作。菊池亜希子・中島歩を主演に迎えた『グッド・ストライプス』(15)で長編デビューし新藤兼人賞金賞を受賞。『あのこは貴族』が長編2本目となる。

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。