インタビュー

『あのこは貴族』で描いた“いがみ合わない女性たち” 映画監督・岨手由貴子の「わたし流」

著者:関口 裕子

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撮影中の岨手由貴子監督(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
撮影中の岨手由貴子監督(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会

 映画業界の女性たちにスポットを当て、これまでの人生やその仕事を選んだ理由など、「わたし流」の仕事と生き方を掘り下げるインタビューシリーズ。今回は長編2作目『あのこは貴族』(2021)が公開中の岨手(そで)由貴子監督の後編です。本作を通じて描きたかったことについて、じっくりと話を伺いました。聞き手は映画ジャーナリストの関口裕子さんです。

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 山内マリコの同名小説を原作とした映画『あのこは貴族』には、2組の女性たちが登場する。まず1組目は、挫折も不自由も、自分たちが属するステータス以外の生活も知らず大人になった主人公・華子(門脇麦)と、華子と小学校から同じミッション系の有名私立女子校に通ったバイオリニストの相楽逸子(石橋静河)。

 一方の2組目は、富山の進学校から猛勉強を重ねて名門大学に入学した2人。内部進学生のきらびやかさに臆しながらも大学生活を謳歌しようとするが、父親の失業で大学中退を余儀なくされた時岡美紀(水原希子)と、大学卒業後Uターンして地元の一流企業に就職した平田里英(山下リオ)だ。

 東京出身のお嬢様を演じた門脇と石橋、地方出身で自分のポジションを自ら切り拓いた水原と山下は、それぞれの役に共感する部分が大きいと語る。核となる門脇と水原が決まった時点で、岨手由貴子監督はこの映画の成功を“確信”したのではないか?

現場で演出するのがとにかく楽しかった

──門脇麦さん、水原希子さんとのお仕事はいかがでしたか?

 門脇さんは私よりずっとお若いですが、経験豊富で落ち着いた方。打ち合わせをしていても、この道ン十年のベテランスタッフと向き合っているような安心感がありました(笑)。ただ今回の役柄については、ほとんど本心を吐露しないキャラクターだったので、演じるのが大変だったと思います。撮影中も一つひとつシーンを積み重ねつつ、自分の中で静かに華子の人物像を育てておられる印象でした。私も、そんな門脇さんのお芝居を見ながら手探りで演出している感覚でした。

 一方の水原さんは、オープンでありながら繊細な方。「幸一郎ってどんな存在かな?」「そういうことってあるよね」など壁を作らず何でも話せたので、各シーンの美紀の心情は深いところまで共有できていたと思います。“地方出身者が見た東京”は私自身よく知っている世界ですし、美紀は共感しやすいキャラクターなので、現場で演出するのがとにかく楽しかったですね。

――初めて華子と美紀、逸子がホテルのラウンジで会うシーンで、観客心理を欺く面白い演出をされていますね? 美紀と逸子の話すテーブルに後から着席した華子が、「母から」と厚みのある封筒を取り出します。“手切れ金?”を思わせる演出にドキッとさせられますが、実は中身は雛人形展のチケット。このはずし方と映像的な面白さには思わず膝を打ちました。

 ありがとうございます。あのシーンは少し長いので、観客の意識が離脱しないようにはずすことを狙いました。あのリズムはとても難しかったので、そう言っていただけてすごくうれしいです。

――そんな華子が2度目に美紀に会う場所は原作ではカフェという設定でした。それを映画では、街中で美紀を見かけた華子が自分から声をかけ、美紀のマンションへ行く設定に変えられています。この変更の意図を改めて伺えますか?

 原作の美紀はサバサバとした人で、華子のメンター的な存在なのですが、映画版ではもう少しナイーブな女性に描いています。美紀自身も華子同様、迷いの渦中にいるように。そんな美紀を、タクシーに乗った華子が呼び止めるシーンを作ったのは、思いを内に秘め続ける華子のキャラクターをフィジカルに動かしたかったからというのもあります。アクションを起こすことで脱皮させたかったといいますか。

 またタクシーに乗っている華子はずっと街の傍観者でした。でも美紀を認識してからは自分もその景色の一員であることに気付き、それまでいた世界から飛び出していくわけです。それを描きたかったのもありました。

 もう1つは、そんな美紀の生き方、世界を見せたかったから。そういう点と点を結び付ける形で、あのシーンができました。

――美紀の部屋に誘われた華子が「全部美紀さんのものだから落ち着く」という台詞は、まさしく華子の気持ちの変化を感じさせます。

 部屋は、人生を自分のものにしたというメタファーでもあります。あのセリフは書くのに苦労したので気に入ってくださる方が結構多くてうれしいです。