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『あのこは貴族』で描いた“いがみ合わない女性たち” 映画監督・岨手由貴子の「わたし流」

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

「女性監督同士って仲悪いの?」とよく聞かれる

――男性をめぐって女性同士が揉める、ポジションをめぐっていがみ合う。そんな映画はこれまでもたくさんありましたが、本作のような女性同士が相手を思いやる、ある種、理想的な関係を描いた作品はあまり見たことがなく、ものすごく新鮮に感じました。

 原作で山内さんがそこを大切に書かれていたというのもありますし、この映画の一番のテーマなので繊細に描かなければと思っていました。特に女性同士がケンカをしないという理由は、観客の腑に落ちないと説教臭く感じられてしまう可能性があり、そのバランスがとても難しかったです。

――映画の中に、「女同士対決するように仕向けられているのよ」というセリフがあります。実際、そう感じることはありますか?

 山内さんも書かれていますが、ものすごく共感するところです。映画業界でも「女性監督同士って仲悪いの?」とよく聞かれますが、一般企業でもたぶん同じなんでしょうね。ものを創っている日本映画の価値観から更新されないと変わらないのではないかとも思います。この映画のスタッフにも、劇中のこの女性たちは恰好つけ過ぎ、絶対ケンカするはずだとおっしゃる方がいました。そういうのを観たいんでしょうね。

“居場所”とは、どこへ行っても大丈夫な自分がたどり着いた場所

――この映画の登場人物たちは、女性、男性問わず、用意されたものではない、自分なりの居場所を切り拓こうとしているように思いました。そのためにコミュニケートし、人を理解しようとしていると。最後に、人にとっての“居場所”とはなんだと思いますか?

 逸子の台詞に「いつでも別れられる自分でいたい」というのがあります。あれは私が自分自身の格言みたいに思っているワードなんです。理想は、人や物、場所などに依存しなくても立っていられる生き方。

 そういう意味で“居場所”とは、どこへ行っても大丈夫な自分がたどり着いた場所というイメージです。華子や美紀も東京に限定せず、日本のどこか、もしくは世界のどこかに住み、仕事することがあるのかもしれない。そんな風に思っています。

『あのこは貴族』2021年2月26日(金)全国公開 (c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会 配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ

◇岨手由貴子(そで・ゆきこ) 監督・脚本
1983年生まれ。長野県出身。大学在学中、篠原哲雄監督指導の元で製作した短編『コスプレイヤー』が「第8回水戸短編映像祭」「ぴあフィルムフェスティバル2005」に入選。2008年、初の長編『マイム マイム』が「ぴあフィルムフェスティバル2008」で準グランプリ、エンタテインメント賞を受賞。2009年には「文化庁若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)」に選出され、山中崇と綾野剛らを迎えた初の35ミリフィルム作品『アンダーウェア・アフェア』を製作。菊池亜希子・中島歩を主演に迎えた『グッド・ストライプス』(15)で長編デビューし新藤兼人賞金賞を受賞。『あのこは貴族』が長編2本目となる。

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。